AV・アダルト出演契約書の作り方│AV新法対応の必須条項10選【行政書士】

最終更新:2026年7月/ 一般的な解説であり、個別の契約について有効性を保証するものではありません。

「古いテンプレのまま使っている」「そもそも口頭で済ませている」——この2つが、いま最も危険な状態です。

状態 何が起きるか
口頭合意のみ 契約書面の交付義務に反する。報酬・公表範囲・解除の全部で争いになる
AV新法前のテンプレを流用 解除権を制限する条項が残っていれば無効。しかも、無効条項があること自体が不利に働く

この記事で分かること

  • 出演契約書の必須条項10選と、その書き方
  • 書いてはいけない条項(書いても無効・違法になるもの)
  • 同意書と契約書の違い、締結の実務フロー

法律そのものの全体像(適用範囲・義務・罰則)はAV新法とはで解説しています。この記事は、契約書に落とし込む実務に集中します。

AV新法で、契約実務は何が変わったか

法律の全体解説はしません。契約書に影響する4点だけを取り出します。

①書面交付義務

出演契約は、書面で締結し、出演者に交付することが求められます。「口頭で合意した」「LINEで確認した」では足りません。

論点 実務での対応
いつ交付するか 契約締結の場で、その場で控えを渡す。「後で送ります」で終わらせない
電磁的方法は使えるか 条文に即した確認が必要。電子契約を使うなら、事前に要件を確認すること
記載事項 撮影内容、報酬、公表の方法・時期、解除に関する事項などが定められている

②説明義務

契約を結ぶ前に、出演者に説明をしなければなりません。そして——

「説明した」ではなく「説明したことを証明できる」状態を作る。

紛争になったとき、制作者は「説明しました」と言い、出演者は「聞いていません」と言います。記録がなければ、制作者が負けます。

だから、説明事項を記載した書面に確認欄と署名を設ける——これを契約書とセットで運用してください。

③撮影から公表までの期間規制

契約から撮影まで、撮影から公表まで、それぞれ一定の期間を空けなければなりません。

ここが、契約書の設計に直結します。

契約書の公表条項に「◯月◯日から配信を開始する」と書いたとして、その日付が期間規制に反していれば、その条項は意味をなしません。

つまり——契約書を作る前に、スケジュールが法定の期間を満たしているかを確認する必要があります。順序が逆だと、作り直しになります。

④出演者の解除権

結論を先に書きます。解除権を制限する条項は、書いても無効です。

「解除権を放棄する」「解除した場合は違約金◯◯万円」——こうした条項に、効力はありません。

それどころか、無効な条項を入れていること自体が、行政の指導対象になったり、取引先審査でマイナス評価を受けたりします。効かない条項を入れて、リスクだけ増やす——最悪の結果です。

出演契約書の必須条項10選と書き方

各条項を「目的 → 書き方のポイント → ありがちな不備」の型で整理します。

条文例は、断片のみを示します。全文のひな形は掲載しません。事案によって書くべきことが変わり、テンプレの流用が最も危険だからです。

①当事者・作品の特定

目的:誰と誰の、どの作品についての契約かを確定させる。

書き方のポイント ありがちな不備
本名で契約する。芸名は別途「芸名として使用する名称」として記載する 芸名だけで契約している。本人が特定できない
1作品ごとに契約する 「今後制作する全作品」という包括契約。危険度が高い
作品を、仮題・撮影日・内容で特定する 作品が特定されていない

包括契約の危険性

「本契約に基づき制作される全ての作品について」——この書き方は、撮影内容が特定されていないことを意味します。

撮影される行為を具体的に特定することが説明義務とも連動している以上、包括契約は法の構造と正面から衝突します。そして、出演者を長期に拘束する道具にもなりやすい。

1作品1契約。面倒でも、これが原則です。

②撮影内容の具体的な記載(NG行為の列挙)

目的:何を撮るのか、何を撮らないのかを、事前に確定させる。

「監督の指示に従うものとする」——この包括条項は、機能しません。

なぜか。撮影される行為が特定されていないからです。

説明義務は「何をするのか」を説明することを求めています。契約書に「指示に従う」としか書いていなければ、説明のしようがありません。そして、当日に「これも撮る」と持ち出せば、それは断りにくい圧力を作ることになります。

【条項の骨子】
第◯条(撮影内容)
1 本作品における撮影内容は、別紙1のとおりとする。
2 別紙1に記載のない行為は、撮影しない。
3 出演者は、撮影中いつでも中止を求めることができ、制作者は直ちに撮影を中止する。

別紙にNGリストを設ける。そして、出演者自身に書いてもらうのが最も実効的です。「やらないこと」を本人の手で列挙してもらう——これが、後の争いを防ぎます。

撮影罪における同意の範囲とも直結する論点です → 撮影罪とは

③報酬と支払時期

目的:いくらを、いつまでに、どう払うかを確定させる。

書くこと ポイント
金額 税込・税抜、源泉徴収の有無を明記
支払時期 「撮影後◯日以内」と具体的に。「作品の公表後」とすると、公表が遅れれば報酬も遅れる
支払方法 振込先、振込手数料の負担
歩合がある場合 計算方法、報告の方法、支払時期

支払時期の明記が、未払い紛争の予防線になります。期日が書かれていない契約は、争いの温床です → 報酬未払いの請求方法

④公表条件と、期間規制への対応

目的:いつ、どこで、どの範囲で公開するかを確定させる。

【条項の骨子】
第◯条(公表)
1 制作者は、本作品を、法令に定める期間の経過後でなければ公表しない。
2 公表の方法・媒体は、別紙2に記載の範囲に限る。
3 別紙2に記載のない媒体での公表には、出演者の別途の同意を要する。

「別紙2」がポイントです。公表する媒体を列挙してください。

  • 自社サイト
  • DL販売サイト(具体的なサービス名)
  • サブスクリプション型の配信
  • 海外向けの配信——ここを見落としがち
  • 切り抜き・ダイジェストの販売
  • 宣伝用のサンプル(SNSでの使用を含むか)

「後から売りたくなる」のが、この業界の常です。そのとき、別紙2に書いていなければ、改めて同意を取る必要があります。そして、そのときには関係が切れているかもしれない。

⑤解除権の明記と、精算ルール

目的:出演者の解除権を、正しく契約書に反映する。

解除権は「書かない」のではなく「正しく書く」。

解除権を制限することはできません。しかし、解除が行使された場合の処理を、法の枠内で定めておくことはできます。

  • 解除の意思表示を、どういう方法で受けるか(連絡先の明記)
  • 解除を受けた後、制作者がどういう措置を取るか(販売停止、取り下げ)
  • すでに支払った報酬の扱い(法の枠内で)

「解除できます」と契約書に明記すること自体が、誠実さの表明でもあります。隠している契約書は、それだけで信頼を失います。

⑥二次利用・配信範囲

目的:作品を、どこまで使ってよいかを確定させる。

後日の紛争が最も多いゾーンです。

  • プラットフォームへの転載——他社サイトへの卸し
  • 海外配信——日本国内での販売を想定していた出演者にとって、これは想定外
  • 切り抜き・ダイジェスト——本編への同意が、切り抜きに及ぶか
  • 編集・再構成——別作品への流用
  • 期間——いつまで販売するのか。「永久に」と書けるか

⑦肖像・パブリシティの利用範囲

目的:作品本編以外での、姿・名前の使用範囲を確定させる。

用途 確認すること
宣材写真 撮影するか。どこで使うか
サンプル動画・静止画 無料で公開されることを、出演者は理解しているか
SNSでの使用 制作者のSNSアカウントで使ってよいか
芸名の使用 他社での活動に影響しないか

⑦肖像・パブリシティの利用範囲

目的:作品本編以外での、姿・名前の使用範囲を確定させる。

用途 確認すること
宣材写真 撮影するか。どこで使うか
サンプル動画・静止画 無料で公開されることを、出演者は理解しているか
SNSでの使用 制作者のSNSアカウントで使ってよいか
芸名の使用 他社での活動に影響しないか
パッケージ・サムネイル 作品を買わない人の目にも触れます

「サンプルは無料で公開される」——これを説明していますか。

出演者は、「作品を買った人だけが見る」と思っていることがあります。しかし実際には、サンプルは誰でも見られます。SNSで拡散されます。

この認識のズレが、後の「聞いていない」を生みます。サンプルの範囲と公開先を、契約時に明示してください。

⑧秘密保持(相互)

目的:双方の秘密を守る。

「相互」であることが重要です。

制作者側の情報だけを守る片務的な条項では、出演者の信頼を得られません。

出演者の本名、住所、連絡先、その他のプライバシー——これを制作者が守る義務も、明記してください。この一文があるかどうかで、契約書の印象がまったく変わります。

そして、これは営業上も有利です。「演者を守る事務所」という評価は、次の出演者を連れてきます。

⑨反社会的勢力の排除

目的:双方が反社会的勢力でないことを表明・確約する。

定型的な条項ですが、省くと取引先審査で落ちます。プラットフォーム、決済代行、取引先——いずれも、この条項の有無を見ます。

⑩紛争解決・管轄

目的:争いになったとき、どこで解決するかを決めておく。

  • 合意管轄:「◯◯地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする」
  • 協議条項:まず協議する旨
  • 準拠法:日本法

管轄の合意は、実益があります。遠方の裁判所で争うことになれば、それだけで訴訟のハードルが上がります。ただし、一方に著しく不利な管轄合意は、それ自体が不当条項として問題になり得ます。

契約書を作る前に、決めておくこと

いきなり条項を書き始めても、書けません。先に、事業の側で決めておくべきことがあります。

決めること 決まっていないと、どうなるか
どこで販売・配信するか 公表媒体の条項が書けない。後から媒体を増やすと、同意を取り直す必要が出ます
報酬の払い方 固定か、歩合か。歩合なら計算方法。ここが曖昧だと、未払い紛争になります
いつ撮り、いつ公表するか 期間規制を満たすスケジュールか。逆算して契約日を決める必要があります
二次利用をするか 切り抜き、海外配信、他社への卸し。「やるかもしれない」なら、最初から入れておく
解除されたら、どう対応するか 社内手順。起きてから考えると、対応が遅れます

「とりあえず契約書を作って、後で考える」——できません。

契約書は、あなたの事業の設計図です。事業をどう回すかが決まっていなければ、書きようがない。

逆に言えば——契約書を作る作業が、事業の設計を強制的に考えさせてくれます。これは、副次的ですが大きな価値です。

同人・個人制作者のための、最小構成

「メーカーみたいな体制は組めない」——分かります。しかし、この法律は体制の有無で義務を減らしてくれません。

最小限、これだけは揃えてください。

書式 枚数 中身
①出演契約書 A4×2〜3枚 本記事の10条項。1作品ごとに
②別紙1:撮影内容とNGリスト A4×1枚 出演者に書いてもらう
③別紙2:公表媒体リスト A4×1枚 チェックボックス形式
④説明書面 A4×1〜2枚 説明事項+「説明を受けました」の署名欄
⑤年齢確認記録 A4×1枚 身分証の写し+確認日・確認者 → 年齢確認
⑥日付管理表 スプレッドシート1枚 契約日・撮影日・公表日

合計、A4で6〜8枚。スプレッドシート1枚。

これで足ります。大きな会社と同じ体制は要りません。

しかし、この6つがなければ——何かあったときに、あなたは何も証明できません。

そして、この6つを作るのに必要なのは、1日です。1日の投資で、事業を守れます。

演者側から見た、この契約書

この記事は制作側に向けて書いていますが、演者側の視点を併記します。一方的に制作側に有利な契約書は、結局、制作側を守らないからです。

演者がチェックすべき5点

見るところ 危険なサイン
1 撮影内容 「監督の指示に従う」——何をされるか分からない契約です。サインしてはいけません
2 公表の範囲 「あらゆる媒体で、無期限に」——切り抜き、海外配信、二次利用まで無制限になっていないか
3 解除に関する記載 「解除できない」「解除したら違約金◯万円」——これは無効です。そういう条項を書く相手は、他も信用できません
4 報酬と支払時期 金額・支払日・支払方法が書かれていない
5 説明を受けたか その場でサインを求められた。考える時間をもらえなかった

制作側へ:上の5点は、そのまま「あなたの契約書の点検リスト」です。

演者に不信を抱かせる契約書は、あなた自身のリスクでもあります。納得していない演者は、後で解除します。そして、揉めた演者は、あなたの内部を知っています。

丁寧な説明、明確な範囲、適正な報酬。これは道徳の話ではなく、解除リスクと紛争リスクを下げる、最も実効的な経営判断です。

チャットレディ・ライブ配信系の契約

AV制作ではなく、ライブチャットの事務所・スタジオが演者と結ぶ契約についても、簡単に触れておきます。

論点 要点
雇用か業務委託か 「業務委託」と書いてあっても、実態が労働者なら労働法が適用され得ます。出勤時間の指定、細かい指揮命令、断る自由がない——これらが揃うほど、労働者性が強まります(→ 労働者性と報酬請求の実務)
罰金・ペナルティ条項 遅刻・欠勤に対する罰金。労働者性が認められる場合、賠償予定の禁止に触れ得ます
報酬の支払い 歩合率、支払日、控除項目を明記。未払い紛争の予防線 → 報酬未払いの請求方法
アーカイブ・録画の扱い 配信のアーカイブを販売するなら、それは公表です。AV新法の適用も検討が必要
退所時の扱い アカウントの帰属、過去の配信の削除

事務所・スタジオを開業する側の全体像は ライブチャット事業の開業に必要な届出 をご覧ください。

書いてはいけない条項|無効・違法になる例

NG①:解除権の放棄条項
「出演者は、本契約の解除権を放棄する」——無効。法が認めた権利を、契約で奪うことはできません。

NG②:高額な違約金による拘束
「出演を拒否した場合、違約金として◯◯万円を支払う」——公序良俗違反・消費者契約法上の不当条項として無効になり得ます。そもそも、金銭で出演を強制する構造そのものが、この法律の趣旨に真っ向から反します。

NG③:過度な移籍禁止・専属義務
「本契約期間中、他社の作品に出演してはならない」——期間や範囲が過度であれば、職業選択の自由との関係で無効になり得ます。

NG④:包括的な権利放棄
「出演者は、本作品に関し一切の異議を述べない」——何に対する異議なのかが不明で、包括的な権利放棄は無効と評価され得ます。

NG⑤:削除・公表停止を求めない旨の条項
法が認めた解除権・停止請求を封じる方向の条項は、無効です。

なぜ無効になるのか

根拠 考え方
AV新法 法が出演者に与えた権利を、契約で奪うことはできない
公序良俗(民法90条) 社会的に許容されない内容の契約は無効
消費者契約法 消費者の利益を一方的に害する条項、事業者の責任を全部免除する条項は無効

このH2のメッセージは、たった一つです。

「書けば有効になる」わけではありません。

強い条項を入れれば入れるほど守られる、というのは誤解です。無効な条項が混ざった契約書は、いざというときに機能しないばかりか、行政対応でも、取引先審査でも、あなたの信頼を損ないます。

「この事務所は、無効と知りながら演者を縛る契約を使っている」——そう見られたときの損失を、計算してください。

同意書と契約書の違い|両方必要な理由

その前に——「強い契約書」が、なぜ逆効果なのか。

制作者は、こう考えがちです。「厳しい条項を入れておけば、演者は逃げられない」。

この発想が、事務所を破滅させます。

  • 条項は無効——だから、実際には縛れていません
  • 無効な条項を使っていた事実が残る——行政・取引先・裁判所での評価が下がります
  • 演者が、それを外部に持ち出す——SNSで晒される。弁護士に相談される
  • 「無効と知りながら演者を縛っていた事務所」——この評価は、消えません

縛れていないうえに、信用を失う。最悪の組み合わせです。

本当に演者を留めるのは、契約書ではありません。適正な報酬、丁寧な扱い、透明な運用。それだけです。

同意書 契約書
機能 個別の行為への同意の証拠 権利義務の設計
問いに答えるもの 「この行為に同意したか」 「いくら払うか」「どこまで公開するか」「解除されたらどうなるか」
いつ使うか 撮影当日の確認を含む 撮影前の契約締結時
関連する法律 撮影罪(同意の証明) AV新法(書面交付義務)

「同意書があるから契約書は要らない」——これは、両方の機能を誤解しています。

同意書は、「撮ってもいい」と言った証拠です。しかし、そこには報酬も、公表範囲も、解除の処理も書かれていません。

逆に、契約書があっても、撮影当日にNGリストを確認した記録がなければ、「同意の範囲を超えた」と言われたときに反論できません。

両方必要です。そして、両者は連動させて運用します。

撮影当日の同意確認フローは撮影罪の記事、本人確認は年齢確認の記事と連動させてください。

締結の実務|説明・交付・保管のやり方

やること ポイント
1 年齢確認 公的な身分証で。記録を残す。ここが最初
2 説明 説明事項を書面で渡し、口頭でも説明する。確認欄に署名をもらう
3 熟慮期間 その場でサインさせない。持ち帰って考える時間を作る
4 契約締結 署名・押印。NGリスト(別紙1)も同時に
5 交付 その場で控えを渡す。「後で送る」にしない
6 期間の管理 契約日を記録。撮影可能日・公表可能日を算出
7 撮影当日の確認 NGリストを二人で読み合わせ、確認した旨を記録
8 保管 契約書・説明記録・年齢確認記録を、作品と紐付けて保管

「熟慮期間」を軽視しないでください。

その場で説明して、その場でサインさせる——この運用は、「断りにくい状況を作った」と評価され得ます。

持ち帰って読む時間を与える。質問を受ける。それでも出演すると決めた人とだけ、仕事をする。

面倒に見えますが、これが最も紛争を減らします。迷いながら出演した人が、後に解除を行使するのです。

無料テンプレートを、そのまま使う危険性

テンプレートが悪いわけではありません。危険なのは、点検せずに流用することです。

テンプレの3大欠陥 中身
①新法非対応 解除権・期間規制・説明義務に対応していない。ネット上のひな形の多くが、これ
②実態と不一致 あなたの取引実態(公表媒体、報酬の払い方、二次利用の範囲)と合っていない
③無効条項の混入 違約金、解除権放棄、包括的な権利放棄。入れた瞬間、リスクになる

そして、これが最も痛い。テンプレを使っている人は、自分の契約書に何が書いてあるかを、正確には知りません。問題が起きて初めて読み返す——そのときには、遅い。

電子契約は使えるか

一般論として、契約は電子的な方法でも成立し得ます。電子サインのサービスも普及しています。

ただし、この分野では、次の3点を確認してください。

  • 書面交付義務との関係——法令上、書面の交付が求められる場面で、電磁的方法が認められるか、認められるとしてどういう要件か。ここは条文の確認が必要です
  • 本人性の確保——誰がサインしたのかを、後から証明できるか。メールアドレスだけで本人確認をした、では弱い
  • 説明義務との整合——電子で送りつけて「同意」を押させるだけでは、説明したことになりません。説明のプロセスは、別に必要です

「電子契約にすれば、全部が楽になる」というのは、幻想です。楽になるのは事務であって、義務の中身は変わりません。

保管|何を、どこに、いつまで

保管するもの 紐付ける先
契約書(署名済み) 作品ごとに紐付けて保管する。
バラバラに保管すると、
「この作品の記録はどれか」
が分からなくなります
説明書面・説明の記録
本人確認書類の写し・確認記録
契約日・撮影日・公表日の記録
NGリスト・撮影範囲の合意記録

作品名でフォルダを作り、その中に全部入れる。これだけで、行政の調査にも、紛争にも、決済審査にも対応できます。

保管期間は、関係法令の定めと、時効期間を踏まえて設定してください。「もう古いから捨てた」が、最も危険です。

よくある質問

Q1. 同意書だけで、契約書はなくても大丈夫ですか?

機能が違うため、両方必要です。同意書は「個別の行為への同意の証拠」、契約書は「権利義務の設計」。同意書だけでは、報酬も、公表範囲も、解除の処理も定まりません。そして、公表を予定した制作では、契約書面の交付が義務づけられています。

Q2. 電子契約(電子サイン)でも有効ですか?

一般論として、契約は電磁的方法でも成立し得ます。もっとも、この分野では書面の交付が法律上の義務とされている場面があり、電磁的方法が認められるか、要件は何かを条文で確認する必要があります。本人確認の担保、受領・確認の記録という実務課題もあります。運用を決める前に確認してください。

Q3. 一度結んだ契約を出演者から解除されたら、報酬や費用はどうなりますか?

解除は理由を問わず認められる制度であり、解除を理由に出演者へ損害賠償を求めることは想定されていません。制作費は制作側の負担として残ります。これは制度設計上、意図されたリスク配分です。解除を制限する条項は無効であり、入れていること自体が不利に働きます。解除が起きても事業が飛ばない設計にするのが、現実的な対応です。

Q4. 個人間の撮影(カップル・夫婦)でも契約書は必要ですか?

公表するなら、必要です。関係が近いほど書面を作りにくいのは事実ですが、関係が壊れたときの紛争は、近い関係ほど深刻です。「撮影への同意」と「公表への同意」は別物であり、後者を書面にしていないことが、最も多い紛争の原因です → 撮影罪

契約書は、誰のために作るのか

最後に、この記事の根本にある考え方を書いておきます。

契約書は、相手を縛るための道具ではありません。

「演者に不利な条項をどれだけ盛り込めるか」——そういう発想で作られた契約書は、結局、制作側を守りません。

  • 無効な条項は、いざというときに効きません
  • 納得していない演者は、解除権を行使します
  • 揉めた演者は、あなたの事業の内部を知っています
  • そして、無効条項が混ざった契約書は、行政対応でも取引先審査でも不利に働きます

良い契約書とは、双方が納得して署名できる契約書です。撮る内容が明確で、報酬が明確で、公表の範囲が明確で、辞める道が用意されている。

そういう契約書のもとで仕事をした演者は、後から解除しません。紛争にもなりません。結果として、それが最も制作側を守ります。

AV新法は、この考え方を法律にしたものだと理解してください。「規制が厳しくなった」のではなく、「まともにやっている制作者が、まともであることを証明できるようになった」——そう捉えるほうが、実務は前に進みます。

契約書は、一度作れば終わりではありません。取引形態が変わったとき、公表する媒体が増えたとき、法令や運用が変わったとき——そのつど点検が必要です。とくに、施行が新しい法律の下では、実務の運用が固まっていく過程で見直しが必要になります。「3年前に作った書式を、そのまま使い続けている」という状態が、最も危険です。

なお、本記事では条項の考え方と書き方のポイントを示していますが、ひな形の全文配布は行っていません。契約書は、取引実態に合っていなければ機能せず、合っていない書式の流用こそが最大のリスクだからです。

まとめ

  • 危険な状態は2つ——口頭合意のみ新法前テンプレの流用
  • 「監督の指示に従う」式の包括条項は機能しない。撮影内容を具体的に特定する
  • 1作品1契約。包括契約は法の構造と衝突する
  • 公表媒体は、別紙で列挙する。海外配信・切り抜き・サンプルまで
  • 解除権は制限できない。書いても無効で、書いたこと自体がリスク
  • 秘密保持は相互に。演者を守る条項が、次の演者を連れてくる
  • その場でサインさせない。熟慮期間が、紛争を減らす
  • そして——「書けば有効」ではない