特定行政書士の役割とは 行政庁への不服申立てが可能な理由と紛争予防の視点

はじめに

行政書士は、「行政書士法」に基づき、行政庁に提出する書類や権利義務または事実証明に関する書類を作成することを業とする専門家です。その業務は、会社設立から建設業の許認可、相続手続きまで多岐にわたりますが、実は行政書士の中には、通常の行政書士業務に加えて、さらに高度な専門業務を行うことができる「特定行政書士」という資格を持つ者がいます。この「特定」の二文字は、単なる名称の違いではなく、行政書士がお客様の権利を守り、紛争解決に貢献できる範囲を大きく広げる重要なものです。

特定行政書士の制度は、行政書士が行政庁に対する不服申立ての手続きにおいて、お客様の代理人として関与できるようにするために設けられました。行政庁の判断に不満がある場合、従来は弁護士に依頼するか、お客様自身が複雑な手続きを行う必要がありましたが、特定行政書士の登場により、その解決の選択肢が広がったのです。

この記事では、特定行政書士という資格の持つ意味と、一般の行政書士との具体的な業務範囲の違いについて解説します。特に、行政庁への不服申立てという重要な手続きにおける特定行政書士の役割、そして私たちが専門とする契約書作成や公正証書作成といった紛争予防法務の視点から、特定行政書士に相談するメリットを詳しくご説明します。

この記事でわかること

この記事をお読みいただくことで、特定行政書士の業務範囲が行政庁に対する不服申立てにまで及ぶ法的根拠を理解し、一般の行政書士との違いを明確に把握することができます。また、許認可などの行政処分に不満がある場合に取るべき行動と、紛争を未然に防ぐための契約書や公正証書作成といった紛争予防の重要性について深く知ることができます。

事例

これはあくまで架空の事例ですが、行政処分の不服申立てが必要となる典型的な状況です。

長年、地域で建設業を営んできたG社(法人)は、事業拡大に伴い、ある特定の手続きに関する許認可を所轄の行政庁に申請しました。しかし、行政庁からは「提出書類に不備がある」という理由で、申請が不許可処分となりました。G社の社長は、不許可の理由とされた書類不備について、行政庁の担当者の説明に納得できませんでした。G社の顧問行政書士に相談したところ、その顧問行政書士は特定行政書士であったため、G社は行政庁の行った不許可処分が不当であるとして、その行政処分に対する不服申立てを行うことを決断しました。特定行政書士は、不服申立ての手続きに必要な膨大な事実関係の調査、証拠書類の収集、そして法的な論拠に基づいた申立書の作成を一手に引き受け、G社の代理人として行政庁との折衝にあたることになりました。G社の事例は、行政庁との間で意見の対立が生じた際、特定行政書士がお客様の権利を擁護するために最前線で活動できることを示しています。

法的解説と専門用語の解説

特定行政書士の業務と行政不服審査法

特定行政書士は、行政書士法第一条の三第一項の規定に基づく研修を修了し、考査に合格した行政書士のみが与えられる資格です。この資格を持つことで、行政書士は、行政書士法第一条の二に規定する許認可等に関する不服申立ての手続きにおいて、行政庁に対してお客様の代理人として意見陳述や証拠提出などを行うことができるようになります。

ここで、特定行政書士の業務の根拠となる、行政不服審査法から、不服申立ての対象となる処分に関する条文を引用し、その解説を加えます。

行政不服審査法 第三条 「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(以下『処分』という)につき、この法律の定めるところにより、審査請求をすることができる。」

この条文は、行政庁が国民に対して行う「処分」について、国民が不服がある場合に、行政機関に対してその処分の見直しを求める審査請求(不服申立ての一種)ができることを定めています。G社の事例では、行政庁による「不許可処分」がこの「処分」にあたります。特定行政書士は、この行政不服審査法などの法令に基づき、お客様の代理人として、なぜその処分が不当であったのかという法的な論拠を明確にした文書を作成し、行政庁に提出することができます。この代理権の存在こそが、特定行政書士の最大の特長であり、一般の行政書士との大きな違いです。

「不服申立て」と「紛争予防法務」

次に、この問題に関連して知っておくべき二つの専門用語について解説します。

一つ目の用語は、「不服申立て」です。これは、行政庁が行った処分や行政の怠慢に対して、国民がその適正な見直しを求めるために、行政機関に対して行う法的な手続きの総称です。行政不服審査法に基づく審査請求などがこれにあたります。特定行政書士は、この不服申立ての手続きにおいて、お客様の権利を論理的かつ法的に擁護するための書面作成、提出、意見陳述といった代理業務を行うことができます。これは、行政と国民との間の紛争解決を支援する、極めて重要な役割です。

二つ目の用語は、「紛争予防法務」です。これは、将来起こりうる法的なトラブルや紛争を未然に防ぐことを目的とした法的な活動全般を指します。具体的には、契約書を明確に作成すること、遺言書を残すこと、そして金銭の貸し借りや合意事項を公正証書にすることなどが含まれます。特定行政書士は、行政紛争の解決支援という経験を通じて、紛争がなぜ発生するのか、その法的弱点を熟知しているため、この紛争予防法務においても、より実効性の高い契約書や公正証書を作成する能力に長けています。行政庁との紛争予防だけでなく、日常的な取引や私的な合意においても、特定行政書士の視点が活かされるのです。

特定行政書士が担う紛争予防と解決支援

特定行政書士の業務範囲は、行政庁に対する不服申立てという紛争解決支援にまで及びますが、その知識は、行政書士の本来業務である紛争の予防にも大いに貢献します。

行政庁に対する解決支援

G社の事例のように、特定行政書士は、行政処分に不満があるお客様の代理人として、行政庁との折衝を代行し、審査請求などの手続きを適切に進めます。この手続きでは、単に不満を述べるだけでなく、行政法や関連法令に基づき、なぜ行政庁の処分が不当なのかという法的な論拠を明確にした法的文書を提出しなければなりません。特定行政書士は、この高度な文書作成能力を駆使して、お客様の正当な権利の回復を目指します。行政手続きは、非常に専門的で複雑なため、代理人による適切なサポートがなければ、お客様の主張が行政庁に十分に伝わらないリスクがあるのです。

契約書や公正証書による紛争予防

特定行政書士が不服申立ての経験から学ぶのは、文書の明確性の重要性です。行政庁との紛争も、多くは手続きや根拠法令の解釈、あるいは事実認定の文書が曖昧であることに起因します。この教訓は、行政書士の主な専門分野である契約書作成や公正証書作成に直接活かされます。

例えば、契約書においては、将来のトラブルの種となる曖昧な表現を徹底的に排除し、万が一の事態に備えた解除条項や損害賠償条項を明確に盛り込むことで、当事者間の紛争を未然に防ぎます。また、金銭消費貸借契約や遺言公正証書といった、将来の金銭トラブルや相続紛争に直結する文書を公正証書として作成することで、その公的な証明力と執行力によって、紛争の発生そのものを抑止する効果が生まれます。特定行政書士は、紛争の現場を知る者として、「紛争にならない文書」を作ることに特化した専門家であると言えるのです。

特定行政書士に相談するメリット

行政書士の中でも「特定」の資格を持つ専門家に相談することには、お客様にとって大きなメリットがあります。

第一に、行政庁との間に深刻な対立が生じた場合の解決支援です。行政庁の処分に不満があり、法的な不服申立てを検討しているが、弁護士に依頼するほどの問題ではないと感じている場合、特定行政書士がその手続きの代理人として活動できます。

第二に、高度な法的な文書作成能力です。特定行政書士は、行政庁の審査官を納得させるレベルの論理的かつ法的な文書を作成するための研修を受けています。この高度な文書作成能力は、契約書や公正証書といった、あらゆる重要文書の作成に活かされます。特に、あなたの権利と義務を明確にし、紛争を予防するための公正証書作成において、その専門知識は不可欠です。

第三に、紛争予防の視点です。紛争解決の経験があるからこそ、お客様の日常的な契約や合意の中に潜む、将来のトラブルの芽を事前に摘み取り、そのための契約書や合意書を提案することができます。

当事務所では、特定行政書士の資格がもたらす行政紛争解決支援の知識を、行政書士の専門分野である契約書や公正証書の作成といった紛争予防法務に最大限活かしております。行政庁への不服申立てといった高度な手続きのサポートはもちろんのこと、あなたの権利を法的に守り、将来のトラブルを未然に防ぐための、実効性のある合意書や公正証書の作成について、どうぞお気軽にご相談ください。