利用規約と景品表示法の遵守 サービス提供者が知っておくべき誇大広告と景品規制のリスク
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オンラインサービスの成長と高まる利用規約の法的リスク
現代のビジネスにおいて、ウェブサービスやアプリケーション、オンラインプラットフォームを提供する際、ユーザーとの間で交わされる「利用規約」は、サービス運営の根幹を成す最も重要な法的文書の一つです。利用規約は、単にサービスの利用条件を定めるだけでなく、万が一のトラブルの際の責任範囲の明確化や、法令遵守をユーザーに求めるための法的基盤となります。
特に、商品やサービスの宣伝、キャンペーン、インフルエンサーを活用したプロモーションなどを行う事業者は、利用規約作成にあたり、「不当景品類及び不当表示防止法」、略して景品表示法(景表法)の厳格な規制を意識しなければなりません。景品表示法は、消費者が商品やサービスを自主的かつ合理的に選択できる環境を守ることを目的としており、誤解を招くような表示や、過大な景品提供を厳しく禁止しています。
利用規約が景品表示法に不適合であったり、規約の中で法令遵守に関するユーザーへの義務付けが曖昧であったりすると、サービス提供者自身が消費者庁や公正取引委員会からの指導や措置命令といった行政処分を受けるリスクを負うことになります。これは、事業の信用を大きく損なうだけでなく、経済的な損失にも直結します。
この記事では、景品表示法の規制を踏まえた上で、サービス提供者が利用規約をどのように整備すべきか、具体的な法的リスクと対策に焦点を当てて解説します。行政書士などの専門家が、どのようにして利用規約を通じて景品表示法のリスクを予防し、サービスの信頼性を守るのかを詳しくお伝えします。
景品表示法違反のリスクを回避する利用規約作成の重要ポイントが理解できます
景品表示法は、専門的な知識がないと判断が難しいグレーゾーンが多く、知らず知らずのうちに法令違反を犯しているケースも少なくありません。利用規約を、単にテンプレートを貼り付けたものとして扱うのではなく、景品表示法のリスク対策の最前線として機能させるためには、専門的な視点からの整備が不可欠です。
この記事を読み進めることで、読者の皆様は以下の点を明確に理解できるようになります。
- 景品表示法が規制する「不当な表示」や「景品類の提供」が、具体的にどのような行為を指すのか、そしてそれが自社のサービスやキャンペーンのどの部分に該当しうるのかという法的判断の基礎知識が得られます。
- 利用規約において、アフィリエイターやインフルエンサーなどの第三者が行う表示行為について、サービス提供者自身の責任を回避または軽減するために、どのような条項を盛り込むべきかという、実務的な対策の重要ポイントを把握できます。
- 行政書士などの専門家に規約の作成やチェックを依頼することが、将来的な行政処分やユーザーからの訴訟リスクを回避するための、最も費用対効果の高い「予防法務」であることを理解し、その重要性について納得できるはずです。
【事例】利用規約の不備が招いた法令違反のリスク ユーザーの誤認表示がサービス提供者に及ぼした影響
これは、利用規約の整備不足が、サービス提供者自身の景品表示法上の責任につながったという架空の事例です。あくまで規約の重要性を示すための事例としてご覧ください。
健康食品のECサイトを運営するA社は、売上拡大のために、多くのアフィリエイターと提携し、自社商品の宣伝を依頼していました。A社は、アフィリエイトプログラムに関する「利用規約」をウェブサイトに公開していましたが、その内容は一般的なアフィリエイトの報酬体系や禁止事項を定めるに留まっており、景品表示法に関する具体的な規定はほとんどありませんでした。
提携した多くのアフィリエイターの中には、一部の者が成果を上げるために、A社の商品の効果について「飲むだけで1週間で10キロ痩せる」「医学的に証明された究極のダイエット法」といった、根拠のない、著しく誇大な表現を用いて宣伝を始めました。これは、景品表示法が禁じる「優良誤認表示」に該当する可能性が非常に高い行為です。
A社は、アフィリエイターの宣伝活動を全て把握できていなかったため、これらの誇大広告が広範に拡散されていることに気づくのが遅れました。最終的に、消費者庁はこれらの表示を問題視し、アフィリエイター個人の責任だけでなく、「表示内容の決定に関与した」として、A社に対しても景品表示法に基づく指導を行う事態に至りました。
この行政指導において、A社は「アフィリエイターは第三者であり、その表示に責任はない」と主張しましたが、消費者庁は「A社の利用規約において、アフィリエイターに対し、景品表示法を含む法令遵守の義務を明確に課し、かつその表示内容を監視・是正する体制が十分に整備されていなかった」点を問題視しました。つまり、規約上の管理体制の不備が、A社自身の法令違反リスクを高める結果となったのです。
A社は、行政指導への対応に多大な時間と費用を費やし、企業イメージも大きく損なうことになりました。もし、利用規約に、景品表示法を遵守した宣伝文言の使用を厳格に義務付け、違反した場合の提携解除や損害賠償請求に関する明確な条項を設けていれば、行政指導のリスクは大幅に軽減できたはずです。この事例は、利用規約が法令遵守のための「防波堤」として機能し得ることを示しています。
景品表示法が求める利用規約上の3つのリスク対策 優良誤認、有利誤認、景品規制の法的視点
景品表示法は、大きく分けて「不当な表示の規制」と「景品類の制限及び禁止」の2つの柱から成り立っています。サービス提供者は、利用規約を通じて、これらの規制に関するリスクを予防するための条項を設ける必要があります。
1 優良誤認表示(ゆうりょうごにんひょうじ)への対策
優良誤認表示とは、商品やサービスの品質、規格、その他の内容について、実際よりも著しく優良であると消費者に誤解させるような表示を指します。先の事例のような「飲むだけで確実に痩せる」といった科学的根拠のない誇大な表現がこれに該当します。
利用規約では、アフィリエイターやインフルエンサーなどの第三者が宣伝を行う場合、「提供表示」の義務と合わせて、景品表示法に定める不当表示(優良誤認表示を含む)を行わないことを明確に義務付ける条項を設けるべきです。具体的には、「当社から提供された情報や根拠の範囲内でのみ表示を行うこと」「自己の体験談を述べる場合も、それが個人の感想である旨を明記すること」などを細かく規定し、違反時には提携を直ちに解除できる旨を定めます。
2 有利誤認表示(ゆうりごにんひょうじ)への対策
有利誤認表示とは、商品やサービスの価格や取引条件について、実際よりも著しく有利であると消費者に誤解させるような表示を指します。「今だけ限定の価格」と表示しながら、実際には常にその価格で販売している場合などがこれに該当します。
利用規約では、割引やキャンペーンに関する表示を行う際のルールを明確に定めることが重要です。特に、キャンペーン期間や割引率について、事実に反する虚偽の表示を行わないことをユーザーに義務付ける必要があります。また、アフィリエイト報酬の表示についても、誤解を招くような過大な利益を約束するような表示を禁止し、客観的なデータに基づいて行うことを義務付ける条項を設けることで、有利誤認のリスクを軽減します。
3 提供表示(ていきょうひょうじ)の明確化
提供表示とは、第三者が宣伝を行う際に、それが事業者から対価を得て行われているものであることを消費者に分かりやすく示す表示を指します。ステルスマーケティング(ステマ)対策として近年特に重要視されています。
利用規約において、アフィリエイターやインフルエンサーに対し、「広告」「プロモーション」「事業者から提供を受けた」など、経済的な利益を得ている事実を消費者に明確に伝える「提供表示」を義務付ける条項を設ける必要があります。この義務を怠った場合の罰則規定も併せて設けることで、ユーザーの法令遵守意識を高め、サービス提供者側の責任範囲を限定する役割を担います。
不当景品類及び不当表示防止法第5条が定める禁止行為と規約での対策
景品表示法における不当表示の規制の根幹をなす条文は、以下のとおりです。
不当景品類及び不当表示防止法第5条
事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると誤認させる表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
二 価格その他の取引条件について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく有利であると誤認させる表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
三 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について、一般消費者に対し、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の事業を行う他の事業者に係るものよりも著しく優良であると誤認させる表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるものとして内閣総理大臣が指定するもの
この条文は、事業者が行う「不当な表示」を明確に禁止しています。一号が優良誤認表示、二号が有利誤認表示に相当します。景品表示法上の責任を負うのは「事業者」ですが、先の事例のように、第三者であるアフィリエイターの表示であっても、サービス提供者自身が「表示内容の決定に関与した」と見なされると、行政指導の対象となり得ます。
したがって、利用規約において、この景品表示法第5条の精神をユーザーにも遵守させる条項を設けることが、最も重要な予防策となります。具体的には、「本サービスを利用した宣伝、広告、または第三者への情報提供を行う者は、いかなる場合も本法第5条に定める不当表示を行ってはならない」という、法令遵守の明確な義務付けと、違反が判明した際の即時利用停止、提携解除、損害賠償請求を可能にする条項を具体的に記述することが、企業を守るための法的対策となるのです。
法令遵守はサービスの信頼性の基盤 手間や費用を惜しまない専門家による規約整備
利用規約は、サービスの土台であり、法令遵守の防波堤です。景品表示法のリスクは、単に罰則や行政処分にとどまらず、企業イメージの低下や、ユーザーからの信用失墜という、ビジネスの根幹を揺るがす重大な結果を招きます。
利用規約の作成やレビューにかかる手間や費用を「単なるコスト」と捉えるのではなく、「将来の行政処分や訴訟リスクを回避するための不可欠な投資」として捉え直すことが、現代のオンラインビジネスにおける経営戦略の基本です。テンプレートをそのまま使用するのではなく、景品表示法、消費者契約法、特定商取引法など、サービスに関連する全ての法令を網羅し、かつ自社のビジネスモデルに特化したリスクヘッジ条項を盛り込む必要があります。
法律の専門家ではない方が、常に改正される法令や複雑な行政のガイドラインをすべて把握し、完璧な規約を作成することは非常に困難です。客観的な視点と専門的な知見を持つ行政書士などの専門家に、規約の作成やチェックを依頼することで、法的リスクを最小限に抑え、安心して事業を継続できる体制を確立することが可能になります。法令遵守は、サービスの信頼性の基盤であり、お客様の成長を守るための最良の手段なのです。
景品表示法に対応した利用規約作成・チェック サービスを守るための法務サポート
私たち行政書士は、契約書作成の専門家として、オンラインサービス事業者様の利用規約が景品表示法をはじめとする各種法令に完全に適合しているか、リスクの観点から徹底的にチェックし、整備するサポートを提供しています。
お客様のサービス内容やビジネスモデルを深くヒアリングし、アフィリエイト、キャンペーン、ユーザーレビューの取り扱いなど、景品表示法上のリスクが生じやすい箇所を特定し、それを予防するための具体的な条項をオーダーメイドで作成いたします。単なる法令の引用に終わらず、万が一の際に企業を守る「実効性」を重視した規約作成を強みとしています。
利用規約の作成や景品表示法に関するご懸念がございましたら、専門的な知識と経験を持つ私たち行政書士に、ぜひご相談ください。お問い合わせは、専用のお問い合わせフォームまたはLINEからいつでも承っております。迅速に内容を確認し、お客様の不安を解消するための的確なアドバイスとサポートをもって、速やかにご返信することを心がけております。お客様のサービスが法的に盤石な基盤の上で発展できるよう、心よりお手伝いさせていただきます。




