相手方提示の契約書に潜むリスクの特定 契約締結前に取るべきチェックと対策
Contents
はじめに
この度は、当ブログにご来訪いただき、誠にありがとうございます。
ビジネスの世界では、新たな取引を開始する際や、継続的な関係を維持する上で、相手方から契約書を提示されることが頻繁にあります。多くの場合、提示される契約書は、その作成側の都合やリスクヘッジの視点が強く反映されているため、受け取る側、特に自社にとって不利な条項が潜んでいる可能性が高いのが実情です。
一見すると一般的な条項に見えても、その解釈次第で将来、予期せぬ大きな責任を負わされたり、自社の正当な権利行使が妨げられたりするケースは少なくありません。契約書は、双方の合意を示す文書であると同時に、万が一トラブルが発生した際に、責任の所在と範囲を決定づける「裁判での証拠」となる文書です。
私は、お客様の事業活動における法的リスクを未然に防ぎ、公平で安全な取引を実現するための契約書作成および内容確認(リーガルチェック)を専門とする行政書士として、この「契約書に潜む不利な条項」をどのように見抜き、どのように修正すべきかについて、専門的な知識をもって詳細に解説いたします。
この記事を読むことで理解できること
本記事では、「契約書 不利な条項」というキーワードに関心をお持ちの、法律用語に多少馴染みのある皆様へ向けて、以下の重要な知識を深く掘り下げてご提供します。
- なぜ相手方から提示される契約書には不利な条項が多いのかという背景
- 特に注意が必要な条項の具体例と、その法的意味合い
- 契約書チェックを怠った場合に生じ得る時間的・金銭的負担やトラブルの実像
- 不利な条項を公平な内容に修正するための法的根拠と、関連する専門用語の正確な理解
リスクは、単に「損害賠償」という言葉だけでなく、契約の「解除」や「期限」といった一見地味な条項にも潜んでいます。この記事を通じて、漠然とした不安の状態から、
- 具体的なリスクを特定すること
- 交渉可能な修正点を明確にすること
へと進み、実効性のあるリスクマネジメントの手法を身につけていただくことを目標としています。
契約書チェックを怠ったために生じた予期せぬ損害賠償の実例
ここに一つ、あくまで架空の事例として、契約書の内容確認を怠ったために、自社に極めて不利な責任を負わされたトラブルの実例をご紹介します。
システム開発を主業務とする企業A社は、大手企業B社から業務委託契約書を提示されました。A社は取引の成立を急ぐあまり、契約書の署名欄や業務内容、報酬に関する条項だけを確認し、その他の細かい条項については深く精査することなく署名しました。
この契約書には、成果物であるシステムに欠陥(瑕疵)があった場合の損害賠償に関する条項が、A社にとって一方的に不利な内容で潜んでいました。具体的には、
「A社の債務不履行によりB社に生じた損害については、その原因の如何を問わず、B社が被ったすべての直接的及び間接的な損害を賠償するものとする。」
と定められていました。一方で、A社が受け取る報酬額については明確な上限が定められていました。
開発完了後、納品したシステムに軽微な不具合が見つかりました。この不具合が原因で、B社側のプロジェクト全体が数週間遅延し、B社は数千万円に及ぶ「間接的な逸失利益」が発生したと主張し、A社に対して契約書の条項に基づき、全額の賠償を請求してきました。
A社は、「システム開発の報酬は数百万円であるにもかかわらず、間接的な損害まで含めた数千万円の賠償責任を負うのは不公平である」と反論しましたが、契約書には明確に「すべての直接的及び間接的な損害」を賠償すると定めてあったため、法的にはその条項に従わざるを得ない状況に陥りました。
もしA社が事前に契約書をチェックし、この条項について
「損害賠償の範囲は、本契約における報酬総額を上限とする」
といった形で修正交渉を行っていれば、このような予期せぬ巨額の賠償リスクを負うことはなかったでしょう。この事例は、契約書に潜む不利な条項を見逃すことが、どれほど企業の経営を圧迫する結果につながるかを示しています。
不利な契約条項を判断するための法律知識と専門用語の解説
相手方から提示された契約書に潜む不利な条項を適切に判断し、修正交渉を行うためには、その法的背景を理解することが必要です。ここでは、特に不利になりやすい条項に関連する三つの専門用語を解説します。
債務不履行(さいむふりこう)
債務不履行とは、契約の内容に従った履行がされない場合に発生する問題です。この「契約書 不利な条項」というテーマにおいて、最も重要な法的根拠となります。
民法第四百十五条第一項は、この債務不履行があった場合のルールを定めています。
民法第四百十五条第一項
「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき、又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。」
この条文は、契約を守れなかった側(債務者)が、それによって相手方(債権者)に生じた損害を賠償する責任を負うことを定めています。不利な契約条項は、この「債務不履行」が発生した際に、賠償の範囲を不当に拡大したり、不当に契約を解除できる条件を設けたりする形で現れることが多いため、この基本条文が適用されるリスクを常に意識して契約書をチェックする必要があります。
損害賠償の範囲(そんがいばいしょうのはんい)
債務不履行が発生した場合に、どこまでの損害を賠償しなければならないかという範囲を指します。前述の事例のように、賠償の範囲が無限に広がると、契約を履行する側のリスクが不当に大きくなります。
日本の民法第四百十六条は、損害賠償の範囲について、原則を定めています。
民法第四百十六条
「債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。」
この条文から、損害賠償の範囲は、原則として「通常生ずべき損害」に限定されることが分かります。しかし、契約書で「間接的な損害や逸失利益を含む」などと特別に定められてしまうと、その特別の規定が優先されることになり、著しく不利となる可能性があります。
そのため、契約書のチェックでは、この条文の原則を超える賠償責任を負わされていないかを確認し、特に「間接的な損害」を排除する文言を入れるよう交渉することが重要です。
契約の解除(けいやくのかいじょ)
契約の解除とは、契約が成立した後に、一方当事者の意思表示によって、契約を将来に向かって解消させることです。不利な条項は、相手方に一方的で容易な解除権を与える形で現れることがあります。
解除権の発生要件として、民法では債務不履行があった場合に、相当の期間を定めて履行を催告(さいこく:履行を促すこと)し、それでも履行がない場合に解除できるというルールが原則です。
しかし、不利な条項では、
- 「理由の如何を問わず、七日前の書面通知で解除できる」
- 「一度でも軽微な債務不履行があれば、催告なしで直ちに解除できる」
などと、自社側の立場を極めて不安定にするような規定が設けられることがあります。特に、解除されると大きな経済的損失を被る契約においては、この解除条件のチェックは最重要項目の一つです。
特に不利になりやすい条項と修正提案の文例
上記のような法的知識を踏まえ、相手方から提示された契約書で、特に自社にとって不利になりやすい条項と、それを公平にするための修正案の文例を示します。
1.損害賠償の上限に関する条項
元の不利な条項(例)
「債務不履行により生じたすべての損害を賠償する。」
修正提案文例
「本契約の債務不履行に基づき発生した損害賠償の総額は、債務不履行が発生した時点までの、本契約に基づいて受領した報酬の総額を上限とするものとする。ただし、当事者の故意または重大な過失による損害については、この限りではない。」
2.契約解除の催告期間に関する条項
元の不利な条項(例)
「甲は、乙が本契約の義務に違反した場合、直ちに本契約を解除できる。」
修正提案文例
「甲または乙が、本契約に定める義務に違反した場合、相手方は、違反した当事者に対し、書面をもって違反内容を通知し、通知到達日から十四日間を定めて是正を催告するものとする。この期間内に当該違反が是正されない場合に限り、相手方は本契約を解除することができる。」
3.免責事項に関する条項
元の不利な条項(例)
「いかなる場合も、甲の責任は生じない。」
修正提案文例
「甲は、本サービスの利用、または利用不能によって生じた損害について、甲の故意または重過失に基づく損害を除き、責任を負わないものとする。なお、甲の軽過失に基づく損害については、前述の損害賠償の上限額を適用するものとする。」
このように、契約書のチェックにおいては、一方的に大きな責任を負うことを避け、自社が許容できる合理的なリスクの範囲内に限定するよう、客観的な視点から修正を提案することが極めて重要です。
まとめ:契約書への初期投資は将来的な紛争費用を防ぐ最良の手段
相手方から提示された契約書に潜む不利な条項を見過ごし、安易に署名することは、将来のトラブル発生時に、企業の資金や信用、そして時間を大きく奪われるという、極めて大きなリスクを自ら引き受ける行為に他なりません。
契約書チェックを専門家に依頼するための初期的な費用は、万が一の紛争が発生した際の弁護士費用や損害賠償額と比較すれば、はるかに安価な「最良の保険」であると言えます。
契約書の内容が公平であるかどうか、自社にとっての最大のリスクがどこにあるのかを客観的な視点で判断し、法的に有効な修正案を作成するためには、契約法の専門知識と実務経験が必要です。手間や費用を惜しまずに、専門家である行政書士に契約書の内容確認を依頼し、署名前にリスクをできる限り排除することが、安全かつ持続可能なビジネス展開のための絶対条件となります。
提示された契約書のチェックと修正案作成は行政書士にお任せください
私ども行政書士は、法律の専門家として、皆様が提示された各種契約書について、その内容を徹底的に精査し、特に不利な条項やリスクの高い箇所を明確に特定するリーガルチェックを専門としております。
前述した債務不履行や損害賠償、契約解除に関する条項について、お客様の立場を不当に弱めることのないよう、公平で合理的な内容となる修正案を作成し、その交渉の方向性についてもアドバイスをいたします。
行政書士は、紛争の代理を行うことはできませんが、紛争を未然に防ぐための予防法務、特に「適法で公平な文書の作成と内容確認」については、高い専門性を有しています。また、契約書の内容を将来的に確実なものとしたい場合は、その合意内容を公証役場で「強制執行認諾文言付きの公正証書」とすることの支援も得意としており、契約締結後の不履行リスクについても万全の備えを提供いたします。
相手方から提示された契約書について、少しでも不安を感じる条項や、内容確認のご要望がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。お問い合わせは、当事務所のお問い合わせフォーム、またはLINEから、いつでもお受けしております。
特にLINEをご利用いただければ、移動中などでも手軽にご相談いただくことができ、内容を確認次第、迅速に返信することを心がけております。お客様の取引が、常に法的に安定した基盤の上で行われるよう、誠心誠意サポートさせていただきます。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。




