海外取引の安全性を高める英文契約書チェックの重要性と法務の視点

はじめに

この度は、数ある情報の中から当ブログにご来訪いただき、心より感謝申し上げます。

企業のグローバル化が進む現代において、海外の企業やパートナーとの取引は日常的なものとなりました。その際、欠かせないのが「英文契約書」です。日本語の契約書ですら細心の注意が必要ですが、英文契約書となると、言語の違いに加えて、法体系や商習慣の違いから、予期せぬ大きなリスクを内包していることが少なくありません。

特に、インターネット上で見つけた汎用的な英文雛形をそのまま使用したり、表面的な日本語訳のみで内容を判断したりすることは、国際的な紛争に巻き込まれる直接的な原因となり得ます。英文契約書は、単なる取引内容の覚書ではなく、万が一トラブルが発生した際に、自社の権利を守るための「国際的な法的盾」となる文書です。

私は、国際的な取引文書の作成支援、英文契約書の内容確認(リーガルチェック)、そして契約書の公正証書化や公証手続きを専門とする行政書士として、この英文契約書が持つ法的リスクと、日本企業が事前に取るべきリスクヘッジの手法について、専門的な知識をもって詳細に解説をいたします。

この記事を読むことで理解できること

この記事では、「英文契約書 リーガルチェック」というテーマに関心をお持ちの、法律用語に一定の理解がある皆様へ向けて、以下の重要な知識を深く掘り下げてご提供します。

  • 英文契約書特有の法的構造と、それが日本の契約書とどのように異なるのか、特に
    準拠法(Governing Law)」や「合意管轄(Jurisdiction)」といった、
    国際取引の根幹に関わる条項が持つ重大な意味について、明確に理解していただきます。
  • 具体的な架空事例を通じて、英文契約書の内容確認を怠った場合や、
    国際取引特有の条項の理解が不十分であった場合に、企業が直面する可能性のある
    時間的・金銭的なリスクを示します。
  • 英文契約書に頻繁に登場し、日本の商慣習とは異なる解釈がなされる可能性のある
    重要な専門用語や、必ず盛り込むべき条項について、
    関連する法律の知識を交えながら詳しく解説します。
    特に、行政書士の専門分野である文書作成・内容確認の視点から、
    紛争予防の具体的な手法を提示します。

これらの解説を通じて、単に契約書の日本語訳を確認するのではなく、
国際取引における真のリスクを見抜くための視点と、
費用対効果の高い方法でそのリスクを軽減するための指針を得ていただくことを目標としています。

英文契約書の確認不足が招いた国際取引トラブルの実例

ここに一つ、あくまで架空の事例として、英文契約書のリーガルチェックが不十分であったために生じた国際取引上のトラブルの実例をご紹介します。

日本のIT企業G社は、アメリカのソフトウェア開発会社H社と、特定の技術に関するライセンス契約を英文で締結しました。G社は、契約書の大部分が一般的な雛形に沿っていたため、日本語の概要訳だけで契約内容を深く精査することなく署名をしてしまいました。

その契約書には、

  • 「準拠法はアメリカ合衆国カリフォルニア州法とする」
  • 「本契約に関する紛争の管轄裁判所はカリフォルニア州サンフランシスコ地方裁判所とする」

という条項が含まれていました。しかし、G社はこの条項の重大性を十分に認識していませんでした。

契約から一年後、H社から提供されたソフトウェアに重大な欠陥が発見され、G社は多大な損害を被りました。G社は日本国内でH社に対して損害賠償を請求しようとしましたが、H社は契約書の条項を盾に、
「紛争解決はカリフォルニア州の裁判所で行うのが契約上の義務である」と主張し、日本の裁判所での訴訟を拒否しました。

結果として、G社は日本とは言語も法体系も異なる遠いカリフォルニア州で訴訟を提起しなければならなくなり、

  • 現地の弁護士費用
  • 渡航費・滞在費
  • 裁判にかかる長期間の時間とリソース

など、当初の損害額をはるかに超える膨大なコストと手間を強いられることになりました。

この事例が示すように、英文契約書の確認不足、特に国際取引特有の
「準拠法」や「管轄」といった条項を軽視した結果は、
万が一の際に、自社に極めて不利な紛争解決の場を押し付けられるという、
致命的なリスクに直結します。契約書全体のリスクを事前に把握し、
自社に有利な条件で交渉することが、国際取引においては特に重要なのです。

英文契約書チェックで必須となる法律知識と専門用語の解説

英文契約書のリーガルチェックを行うにあたっては、日本の法体系には馴染みの薄い、
国際取引特有の法的概念を理解することが不可欠です。
ここでは、特に重要な三つの用語と、関連する日本の法律の規定を解説します。

準拠法(Governing Law)

準拠法とは、契約の成立、効力、解釈など、契約に関するあらゆる法的問題が生じた場合に、
どの国の法律を適用して解決するかを定めたルールです。
国際私法では、「当事者自治の原則」に基づき、当事者が準拠法を自由に選択できることになっています。

日本の法律では、「法の適用に関する通則法第七条」に、この当事者自治の原則が定められています。

法の適用に関する通則法第七条
法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。

この条文は、契約(法律行為)の効力などは、当事者が選んだ国の法に従うことを示しています。

国際取引において、自国の法(日本の民法や商法など)を準拠法とすることで、
自社の法務部門や顧問弁護士が理解しやすい環境を整えることができます。
前述の事例のように、準拠法を相手国に定めると、その国の法律に基づいて
リスク評価を行わなければならないという、極めて大きな負担が生じます。

合意管轄(Jurisdiction)

合意管轄とは、契約に関する紛争が生じた場合に、
どこの国の、どの裁判所で解決するかを当事者間で合意により定めることを指します。
準拠法と同様に、契約書の条項として合意管轄を定めることが可能です。

日本の民事訴訟法第十一条には、合意管轄に関する規定があります。

民事訴訟法第十一条
当事者は、合意により、第一審の裁判所を定めることができる。

この条文により、当事者は契約によって管轄裁判所を定めることができます。
英文契約書において、この条項を
日本の東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする
などと明確に定めることで、万が一の紛争時に、自社の所在地に近い日本の裁判所で、
日本語による審理を受ける権利を確保できます。

合意管轄を定めない場合、国際的な訴訟提起には複雑な要件が生じるため、
紛争予防の観点から極めて重要な条項となります。

損害賠償額の予定(Liquidated Damages)

英文契約書では、「Liquidated Damages」という形で、
債務不履行があった場合の損害賠償額をあらかじめ予定する条項がよく見られます。
これは、損害の立証手続きを簡略化し、迅速な紛争解決を可能にするためのものです。

日本の民法でも第四百二十条において損害賠償額の予定が認められていますが、
日本の裁判実務では、その予定額が著しく不当であると判断された場合に、
裁判所が減額することがあります。一方、米国のコモンローでは、
懲罰的損害賠償(Punitive Damages)が認められる場合もあるなど、
法的な解釈や運用が大きく異なります。

したがって、この条項における

  • 予定損害額の水準
  • 予定額を超える損害の請求を排除するのか否か

といった点を明確に定めることが、リスク管理上、必須となります。

英文契約書で特に注意すべき重要条項の表現

上記のような法的知識を踏まえ、英文契約書のリーガルチェックにおいては、
特に自社のリスクを最小限に抑えるための表現を慎重に吟味する必要があります。
以下に、重要な三つの条項の英文明例とチェックポイントを示します。

準拠法(Governing Law)に関する文例

This Agreement shall be governed by, and construed in accordance with, the laws of Japan.

(本契約は、日本国の法律に準拠し、それに従って解釈されるものとする。)

チェックポイント:
laws of Japan」と明記することで、
特定の州法(例:California state law)などではなく、
日本の法であることを明確にします。国名だけの表記や曖昧な準拠法指定は、
意図しない地域法の適用につながるおそれがあります。

合意管轄(Jurisdiction)に関する文例

The Parties agree that the Tokyo District Court shall have exclusive jurisdiction
over any and all disputes arising out of or in connection with this Agreement.

(当事者は、本契約からまたは本契約に関連して生じるあらゆる紛争について、
東京地方裁判所が専属的管轄権を有することに合意する。)

チェックポイント:
exclusive(専属的)」という語を明示することで、
日本の裁判所以外での訴訟提起を原則として排除する意思を示します。

不可抗力(Force Majeure)に関する文例

Neither Party shall be liable for any delay or failure in performing its obligations
under this Agreement to the extent that such delay or failure is caused by an event
of Force Majeure, including without limitation, natural disasters, war, or
governmental regulations.

(いずれの当事者も、当該遅延または不履行が、自然災害、戦争、政府の規制を含むが
これらに限定されない不可抗力事由によって引き起こされる限りにおいて、
本契約に基づく義務の履行における遅延または不履行について責任を負わないものとする。)

チェックポイント:
不可抗力事由の範囲がどこまでか(パンデミック、サプライチェーン障害などを含むか)、
また、不可抗力が発生した場合の

  • 通知義務(いつまでに、どのような方法で通知するのか)
  • 不可抗力が継続した場合の解除権・契約終了の条件

が明確に定められているかを確認することが重要です。

まとめ:国際取引文書への投資は将来的な大きな紛争を避ける「保険」

英文契約書は、取引が円滑に進んでいる間は目立たない存在かもしれませんが、
ひとたびトラブルが発生すれば、企業の存続をも左右しかねない
重大な法的文書へと変わります。

国際取引におけるリスクは、国内取引と比較して遥かに複雑であり、
特に「準拠法」や「合意管轄」といった条項の選択一つで、
紛争解決にかかる費用や時間が決定的に変わってしまいます。

したがって、英文契約書の内容確認や作成において手間や費用を惜しまないことは、
将来的に発生し得る数千万円、数億円規模の訴訟リスクや、
海外での長期間の係争を避けるための、
最も確実で費用対効果の高い「保険」であると言えます。

専門家である行政書士に依頼し、客観的かつ国際的な視点から
契約書全体のリスクを事前に把握し、自社に有利な形に修正することが、
グローバルビジネスを安定的に展開するための絶対条件です。

英文契約書の作成とチェックは国際業務経験豊富な行政書士へ

私ども行政書士は、国際的な取引文書の作成支援、英文契約書の内容確認、
そして外国企業との取引に必要な各種許認可や公証手続きのサポートを専門としております。

英文契約書のチェックにおいては、
お客様の取引内容を詳細にヒアリングし、

  • 日本の法体系
  • 国際的な取引慣行

の双方に照らして、特にリスクの高い
「準拠法」「合意管轄」「賠償責任」などの条項について、
最適な修正案を提案いたします。

行政書士は、弁護士とは異なり係争案件の代理はできませんが、
紛争を未然に防ぐための予防法務、特に
「適法な文書の作成とその内容確認」において高い専門性を発揮します。

また、英文契約書を海外で利用する際に必須となる、

  • 公証人役場での公証手続き
  • 外務省のアポスティーユ認証
  • 領事認証などの国際的な文書認証手続き

についても、一貫してサポートすることが可能です。
これにより、お客様は費用を抑えつつ、国際取引に必要な法的安定性を確保できます。

英文契約書の作成、リーガルチェック、または国際的な公証手続きに関するご相談がございましたら、
どうぞお気軽にお問い合わせください。
お問い合わせは、当事務所のお問い合わせフォーム、またはLINEから、いつでもお受けしております。

特にLINEをご利用いただければ、時差を気にすることなく手軽にご相談いただくことができ、
内容を確認次第、迅速に返信することを心がけております。
お客様の国際ビジネスが、強固な法的基盤のもとで安全に発展していくよう、
誠心誠意サポートさせていただきます。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。