著作権譲渡契約書を個人間で作成する際の重要論点と注意すべき法的リスク
1 はじめに
この度は、当ブログをご覧いただき誠にありがとうございます。
現代においては、イラストレーター、カメラマン、ウェブデザイナーといったクリエイターの方々や、企業の広報担当者など、個人間で著作物の制作や利用に関する取引を行う機会が飛躍的に増加しています。特に、イラストや写真、文章などの成果物を取り扱う際、その権利、すなわち著作権をどのように扱うかは、後のトラブルを避ける上で最も重要な論点となります。
「著作権譲渡 契約書 個人」というキーワードで検索されている方は、おそらく、作成した著作物を売買する際、口頭の約束ではなく、法的に確実な書面を作成したいという強いニーズをお持ちのことと思います。著作権の譲渡は、単なる物品の売買とは異なり、無形の権利を移転させる行為であり、その手続きが不確実であると、後に権利侵害や使用差止といった深刻な紛争を引き起こす可能性があります。
このブログでは、個人間で著作権譲渡を行う際に作成する契約書に焦点を当て、具体的にどのような法的注意点があり、どのように記載すべきかについて、行政書士の専門的視点から詳しく、かつ丁寧に解説してまいります。ご自身の権利を守り、安心してビジネスを進めるための参考にしていただければ幸いです。
2 この記事を読んで得られる知識
この記事を最後までお読みいただくことで、著作権譲渡契約の基本構造を理解し、特に個人間の取引で生じやすい「譲渡の範囲の曖昧さ」や「二次利用の許諾」に関する法的リスクを回避するための具体的な方法を把握できます。
具体的には、著作権法における権利の種類や、それらを漏れなく譲渡するための契約書の具体的な記載方法について深く掘り下げて解説しています。また、単なる契約書作成に留まらず、その契約を公正証書にすることの大きなメリットについても理解することで、あなたのビジネスにおける知的財産管理の質を一段と高めることができるでしょう。
3 著作権の譲渡範囲に関する認識のズレが招いたトラブル事例
これは、著作権譲渡における契約の曖昧さが引き起こした架空のトラブル事例です。
フリーランスのイラストレーターであるXさんは、スタートアップ企業Y社から、新しいウェブサイトで使用するためのキャラクターデザイン制作を依頼されました。契約に際し、Xさんは「著作権をY社に譲渡する」という内容の簡易な覚書を交わし、報酬を受け取りました。覚書には、譲渡する権利の種類や、使用の範囲については詳細な記載がありませんでした。
Y社は、ウェブサイトでの利用を開始し、そのキャラクターデザインで順調に集客を伸ばしました。数年後、Y社はこのキャラクターをさらに活用しようと考え、商品のパッケージデザインや、テレビCM用の動画にも利用することを決定しました。
これを知ったXさんは、「私の認識では、ウェブサイトでの利用に限定して著作権を譲渡したつもりだった。商品化やCM利用は、当初の契約には含まれていない」として、Y社に対して別途ライセンス料を請求しました。
一方、Y社は、「著作権を『譲渡する』という契約を結んだ以上、すべての権利を完全に取得しており、あらゆる用途で自由に利用できるはずだ」と主張し、追加の支払い要求を拒否しました。
問題となったのは、簡易な覚書に「著作権を譲渡する」と抽象的に記載しただけで、**「著作権法第27条(翻訳権、翻案権など)及び第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)に定める権利を含む」**という重要な文言が欠けていたことです。
この曖昧さのために、Xさんは自身の意図とは異なる広範な利用を許諾してしまったと主張し、Y社はすべての権利を取得したと主張する、深刻な法的紛争に発展しました。最終的に、裁判で争うこととなり、両者は時間と費用、そしてビジネス上の信用を大きく失うことになりました。
この事例は、著作権譲渡契約書が、単に権利の売買を証明するだけでなく、「何を、どこまで、どのように利用できるのか」という利用の範囲を明確に規定するための「権利の地図」であることを示しています。特に、将来の二次利用の可能性まで見据えた明確な契約書の作成が、いかに重要であるかを痛感させられるものです。
4 著作権譲渡を確実にするための法的概念と条文の理解
上記の事例のようなトラブルを避けるためには、著作権譲渡契約書を作成するにあたり、以下の三つの重要な法的概念を明確に理解し、適切に契約書に反映させることが必要です。
一つ目は「著作権の支分権」です。著作権とは、一つの権利ではなく、著作権法によって定められた複数の権利(支分権と呼ばれます)の束から成り立っています。例えば、複製権(コピーする権利)、公衆送信権(インターネットで公開する権利)、展示権、そして翻訳権・翻案権など、多岐にわたります。契約書で単に「著作権を譲渡する」とだけ記載した場合、どの支分権までが含まれるのかが不明確になりがちです。
二つ目は「著作権法第27条及び第28条に規定する権利」です。これは、上記の支分権の中でも特に譲渡契約で注意が必要な権利です。
著作権法第27条は、翻訳権、翻案権などを定めています。これは、著作物を翻訳したり、別なジャンルの作品に作り変えたりする権利です。
著作権法第28条は、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利を定めています。これは、例えば、イラストを元にしてアニメーションを制作した場合など、その二次的に制作された著作物をさらに利用することに関する原作者の権利です。
著作権法第61条第2項には、「著作権を譲渡する契約において、第二十七条又は第二十八条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。」と規定されています。この条文の解説としては、著作権の譲渡契約を結ぶ際、特に翻訳・翻案権や二次利用に関する権利について、「これらも譲渡する」と明確に契約書に記載しなければ、これらの権利は譲渡した側(クリエイター)に残ったままと推定されてしまう、という極めて重要なルールを示しています。つまり、譲り受ける側(企業など)は、後からイラストをグッズ化したり、アニメ化したりする可能性があるならば、契約書にこれらの条文を必ず明記する必要があるのです。
三つ目は「著作者人格権」です。これは、著作権とは別に、著作者(クリエイター)が著作物に対して持つ精神的な利益を守る権利です。具体的には、公表権(公表するかどうかを決める権利)、氏名表示権(自分の名前を表示するかどうかを決める権利)、そして同一性保持権(意に反して著作物を改変されない権利)などがあります。著作権法第59条には、「著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。」と規定されており、この著作者人格権は、たとえ著作権をすべて譲渡しても、永遠にクリエイター本人に留保され、契約によっても譲渡することはできません。したがって、契約書には、譲渡後も著作者人格権を行使しないことを約束する**「不行使特約」**を盛り込むことが、利用する側にとっては非常に重要な防御策となります。
5 権利の完全な移転を担保するための契約文例
上記の法的論点を踏まえ、譲渡側と譲受側の双方にとって権利関係を明確にするための、契約書における具体的な条項の文例を以下に示します。これはあくまで一般的な文例であり、実際の契約書では個別の成果物の性質に合わせて詳細な調整が必要です。
(著作権の譲渡)
著作者(甲)は、本件成果物(イラスト一式)に関する著作権(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含むすべての支分権を指す)を、本契約締結と同時に、譲受人(乙)に対し、譲渡対価と引き換えに完全に譲渡する。
著作者(甲)は、本件成果物に関する著作者人格権(著作権法第18条、第19条及び第20条に規定する権利をいう)を行使しないことを確約する。
このように、特に重要な著作権法第27条と第28条の権利について**「含む」と明記し、さらに著作者人格権の「不行使特約」**を盛り込むことが、後の紛争を防ぐための必須の措置となります。
6 書類は手間や費用を惜しまず、専門家に客観的な視点で助言をもらうことを一言添える
著作権譲渡契約は、無形の権利を取り扱うがゆえに、その契約書の構成が極めて複雑かつ重要になります。特に、個人間の取引では、専門知識の不足から、インターネット上の簡易な雛形に安易に頼りがちですが、その雛形には、上記で述べたような著作権法上の特有のルール(特に27条、28条の特掲要件)が適切に反映されていないケースが多々あります。
契約書を作成する上で、その手間や費用を節約しようとした結果、将来的に権利の範囲を巡る裁判に巻き込まれ、多額の損害賠償や利用差止請求を受けることになれば、それは取り返しのつかない大きな損失となります。著作権を扱う契約は、将来の利用可能性をどこまで見据えるかという視点が不可欠であり、専門家による客観的な視点と法的リスクの分析に基づく助言が必須です。
行政書士は、お客様の意図を正確に汲み取り、著作権法に基づいた漏れのない契約書を作成することで、クリエイターの方には自身の権利と報酬の確実な確保を、企業の方には取得した著作権の自由かつ広範な利用を法的に担保するためのサポートを提供します。
7 著作権に関する確実な契約書作成のご相談を承ります
当事務所では、イラスト、写真、デザイン、文章など、様々な著作物に関する個人間の著作権譲渡契約書の作成支援を専門的に行っています。単に契約書を作成するだけでなく、その内容を公証役場で公正証書とすることによって、契約の存在と内容の真実性を公的に証明し、万が一の紛争時にも強力な証拠力を確保する手続きまで一貫してサポートしております。
著作権の譲渡・利用許諾に関するご質問、契約書作成や公正証書化に関するご要望がございましたら、どうぞご遠慮なくお問い合わせください。お問い合わせフォームはもちろんのこと、LINEを通じたご相談にも迅速に対応し、お客様のビジネスの確実な発展を、法的な側面から全力でサポートいたします。最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。




