ウェブサイト制作の契約書がトラブルを防ぐ 請負と準委任の法的論点
Contents
1 はじめに
本日は、数ある情報の中から「ウェブサイト制作の契約書」に関するこの記事にお越しいただき、誠にありがとうございます。
私は、お客様の事業における法的安定性を確保するため、特に契約書の作成と公正証書化を専門としている行政書士です。ビジネスにおける契約書は、将来のトラブル発生を防ぐための最も重要なツールであると確信しています。
現代のビジネスにおいて、ウェブサイトは企業の「顔」であり、マーケティングの核となる重要な資産です。その制作を外部に委託する際の契約書は、単なる発注書や見積書の延長ではなく、プロジェクトの成功と将来起こりうる紛争を防ぐための
「事業の地図」として機能しなければなりません。
特にウェブサイト制作の業務は、システム開発とは異なり、デザインや企画立案、打ち合わせなどの「作業そのもの」を目的とする部分と、完成したサイトという「成果物」を目的とする部分が複雑に混在するという特性を持っています。
この特性を理解せずに契約書を作成してしまうと、後になって
「どこまでが作業範囲だったのか」
「不具合の責任は誰にあるのか」
といった認識のズレから、深刻なトラブルに発展することが少なくありません。
本記事では、ウェブサイト制作契約に内在する特有のリスクと、法律に基づいた適切な契約書を作成するための
3つの重要論点
について、法律用語が多少わかる方を対象として、行政書士の視点から掘り下げて解説していきます。
皆様のウェブサイト制作プロジェクトが、法務面でも安心して進められる一助となれば幸いです。
2 ウェブサイト制作の契約で押さえるべき知識
この記事を最後までお読みいただくことで、ウェブサイト制作の業務委託契約において、特に注意しておきたい次の論点について、整理された理解を持っていただけます。
-
① 請負契約と準委任契約がどのように混在しているか
ウェブサイト制作業務において、成果物の完成を目的とする
「請負契約」
と、業務の遂行そのものを目的とする
「準委任契約」
が具体的にどのように混在しているのか、その区別を契約書上どのように明確化すべきかを学びます。
この区別は、制作途中で契約が解除された場合の報酬の有無に直結する重要論点です。 -
② 制作物の著作権・著作者人格権の取り扱い
デザインやコードなどに発生する著作権について、
「誰がどの権利を持つのか」
「発注者が後から自由に改変・運用するためにどんな条項が必要か」
を整理して理解できます。 -
③ 検収・報酬支払いと法的担保の考え方
検収と報酬支払いという、発注者・受注者双方にとって極めて重要な金銭面について、支払い遅延を未然に防ぎ、制作側が安心して業務を遂行するための法的担保措置のポイントがわかります。
そして最後に、これらの論点を踏まえることで、
「専門家による客観的な助言はコストではなくリスク回避の投資である」
という視点を持っていただければと思います。
3 実話レベルでよくある「契約形態の認識違い」で制作が止まる事例
以下は架空の事例ですが、ウェブサイト制作の現場で実際に起こりがちな、契約形態の認識違いによるトラブルをモデル化したものです。
首都圏でファッション関連のEC事業を立ち上げようとしていたC社は、個人事業主であるD氏(ウェブデザイナー兼コーダー)に対し、新規ECサイトのデザインからコーディング、サーバーへのアップロードまでの一連の業務を委託しました。
契約書のタイトルは一般的な
「業務委託契約書」
で、明確に記載されていたのは
「サイト完成時に報酬300万円を支払う」
という条項のみでした。
一方で、制作過程におけるD氏の打ち合わせ・ヒアリング業務が
「成果物完成を前提とする請負」なのか、
「善管注意義務に基づく作業遂行(準委任)」なのかという肝心な区別は、一切なされていませんでした。
制作が始まると、C社は競合他社のサイトを見て頻繁に仕様変更を要求するようになり、そのたびに長時間の打ち合わせを求めました。
D氏からすると、これらの打ち合わせや追加の提案作業は、見積もりに含まれていない追加の役務に当たり、本来のコーディング作業時間が圧迫されていきました。
納期が近づいたある日、C社の経営陣は突如プロジェクト中止を決定し、
「サイトが完成していない以上、報酬は一切支払えない」
とD氏に通告しました。
D氏は、
「完成に至らなかったとしても、ここまでのデザイン案作成や数十回に及ぶ打ち合わせという役務提供分の報酬は発生するはずだ」
と主張しましたが、C社は
「契約はあくまでサイト完成を条件とする請負契約であり、完成していない以上は支払義務はない」
との立場を崩しません。
結果として、契約書において
「打ち合わせなどの業務を準委任として切り分け、その部分の報酬支払条件を定めていなかった」
ために、D氏は膨大な作業を行いながらも、一切の報酬を受け取ることができず、紛争へと発展してしまいました。
この事例は、ウェブサイト制作契約において、
「請負と準委任の混在」という特有の法的論点を無視してはならない
ことを、非常に分かりやすく示しています。
4 専門家が解説するウェブ制作契約書の3つの重要論点
ここからは、ウェブサイト制作契約書を作成・確認する際に、特にトラブル防止の観点から押さえておきたい3つのポイントを解説します。
4−1 請負と準委任の明確な区別
ウェブサイト制作業務の中には、次の2種類の性質を持つ業務が混在しています。
-
請負契約の部分:
デザインの完成、HTML/CSS・CMS構築、サーバーへのアップロードなど、
「完成したサイトという成果物」
の引き渡しを目的とする部分。 -
準委任契約の部分:
企画・コンセプト設計、マーケティング戦略の立案、クライアントとの打ち合わせ、市場調査といった、
「善管注意義務に基づき業務を遂行すること」
そのものを目的とする部分。
この区別を契約書上で明確にしておかないと、特に
制作途中で契約が解除された場合の報酬
で大きな問題が生じます。
-
請負契約(民法634条):
原則として、成果物が完成して初めて報酬請求権が発生。 -
準委任契約(民法648条):
提供した役務の範囲に応じて、既に行った作業分について報酬請求権が発生。
したがって、契約書では、例えば次のようなイメージで整理することが重要です。
- 企画案・構成案作成・打ち合わせ:準委任(着手金・月額報酬など)
- デザインデータ作成・コーディング・本番公開:請負(検収後支払い)
これにより、途中解約があった場合でも、
「少なくともここまでの準委任部分の報酬は支払われる」
というラインを明確にできます。
4−2 著作権および著作者人格権の処理
ウェブサイトを構成する要素(デザイン、ロゴ、写真、テキスト、プログラムコードなど)には、原則として著作権が発生し、その権利は創作した者(受注者)に原始的に帰属します。
発注者が、自社サイトとして自由に運用・改変・再利用していくためには、少なくとも次の点を契約書で整理しておく必要があります。
- 納品物の著作権を、発注者に譲渡するのか、それとも利用許諾にとどめるのか。
- 譲渡する場合、著作権法第27条(翻案権等)および第28条(二次的著作物の利用に関する権利)を含めて、完全移転とするかどうか。
-
著作者人格権(氏名表示権、公表権、同一性保持権)について、
「受注者は当該人格権を行使しない」
旨の合意を置くかどうか。
著作者人格権自体は譲渡できませんが、行使しない旨の合意を契約書に定めることで、発注者は将来的なデザイン変更・テキスト差し替えなどをスムーズに行えるようになります。
4−3 契約不適合責任と免責事項
ウェブサイトが完成・納品された後、バグや表示崩れ、動作不良が見つかった場合、受注者は
契約不適合責任
(旧瑕疵担保責任)を負う可能性があります。
これは、
「納品物が契約内容(仕様書)に適合していない」
場合に、発注者が修補・損害賠償などを請求できる責任です。
民法上は、
「不適合を知った時から1年以内」
に通知する必要がありますが、実務上は、契約書の中で例えば次のように
期間と範囲を具体化
しておくことが多いです。
- 「納品日から3か月間を保証期間とする」
- 「その間に仕様書に反する不具合が発見された場合は、無償で修補する」
一方で、受注者側としては、次のようなケースについて免責を明記しておくことも大切です。
- 発注者が提供した素材(画像・テキスト等)に起因する不具合
- 発注者側サーバー環境・プラグイン等による動作不良
- 納品後の発注者による改変に起因する障害
このように、
「どこまでが受注者の責任で、どこからが発注者のリスクか」
を契約書で線引きしておくことが、紛争予防の観点から非常に重要です。
5 紛争を未然に防ぐ「契約形態の明確化」条項の文例
ここでは、ウェブサイト制作契約において、請負部分と準委任部分の区別を明確にするための条項例を示します。あくまで一般的な参考例ですので、実際には個々の取引内容に応じた調整が必要です。
業務の分類と報酬の支払いに関する条項例
(業務の分類と報酬の支払い) 本契約に基づく受注者の業務は、以下の各号に分類されるものとし、 発注者は、受注者に対し、各号に定める報酬を支払う。 1 企画立案、構成案作成、ヒアリングおよび打ち合わせ業務。 本業務は民法上の準委任契約とし、受注者は善良な管理者の注意 をもって業務を遂行する義務を負う。 本準委任業務に対する報酬は、着手金として金〇〇円とし、 契約締結と同時に支払われるものとする。 契約期間中に発注者の都合により本契約が解除された場合においても、 受注者は既に遂行した準委任業務に対するこの報酬を保持するものとする。 2 デザインの作成、コーディング、サーバーへのアップロード等、 ウェブサイトを完成させる業務。 本業務は民法上の請負契約とし、受注者は成果物を完成させる義務を負う。 本請負業務に対する報酬は、金〇〇円とし、発注者がウェブサイトの 検収を完了した日の属する月の末日までに支払われるものとする。
このような条項によって、
- 「途中解約になっても、最低限ここまでは払われる」というラインを確保できる
- 打ち合わせ・企画などの目に見えにくい役務についても、きちんと価値を認める
という効果が期待できます。
6 成功報酬をきちんと受け取るための結論と助言
ウェブサイト制作契約書は、インターネット上の雛形をコピーするだけでは、
「請負と準委任の混在」という特有のリスク
に十分対応できません。
本記事で取り上げたとおり、
- 請負・準委任それぞれの報酬と支払い条件の明確化
- 制作物に関する著作権・著作者人格権の処理
- 契約不適合責任の期間設定と免責事項の整理
といった専門的な論点について、個別具体的な取引内容に合わせた
カスタマイズ
が不可欠です。
制作側にとっては、打ち合わせや企画などの役務提供に対する報酬を確保し、
一方的なキャンセルや支払い遅延のリスクを減らすこと。
発注側にとっては、自社の事業に適した成果物を、著作権の面でも安心して運用・改変できる状態で受け取ること。
これらを実現するためには、契約書の作成・確認において、手間や費用を惜しまないという姿勢が重要です。
契約書という「見えない法的インフラ」への投資は、将来の訴訟リスクやプロジェクト中断といった、
目に見える大きな損失を防ぐための、非常に費用対効果の高い予防策だと言えます。
必ず、中立的かつ客観的な視点を持つ専門家――予防法務を専門とする行政書士など――に相談し、
法的に適切で、かつ事業の実態に即した契約書を作成されることを強くお勧めします。
7 契約書作成の専門家である行政書士へご相談ください
本記事をお読みになり、ご自身の現在の契約書がウェブサイト制作特有のリスクに本当に対応できているか、不安を感じられた方もいらっしゃるかもしれません。
私は、発注者様・受注者様双方の立場を理解し、業務の性質を正確に反映した
「請負+準委任」複合契約書
をオーダーメイドで作成することを得意としております。
特に受注者様側の立場では、報酬の支払い遅延や一方的なキャンセルといったリスクを回避するため、
金銭債務に関する条項について
公正証書による法的担保措置
を講じることが、非常に有効です。公正証書とすることで、万一の未払い時にも、裁判を経ることなく迅速な強制執行が可能になります。
ご相談は、
- ウェブサイトのお問い合わせフォーム
- 公式LINEアカウント
からお気軽にお寄せください。事業のスピード感を損なわないよう、迅速な返信と丁寧な対応を常に心がけております。
ウェブサイト制作という重要なプロジェクトを、法務面からしっかりと支え、
安心して前に進んでいただけるよう全力でサポートいたします。
最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。




