店舗間の業務提携契約書作成のポイントと法的注意点
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1 はじめに
日頃より、事業の発展に尽力されている皆様、誠にありがとうございます。
現代のビジネスにおいては、自社だけで完結するのではなく、他社と連携し、それぞれの強みを掛け合わせて相乗効果を生み出すことが重要になっています。特に、実店舗を構えて事業を行っている方にとっては、別の店舗と協力し合う「業務提携」が、集客力の向上や新たなサービスの提供につながる有効な手段となるケースが増えています。
一方で、「お互いのためになるから」「信頼できる相手だから」という理由から、口頭での約束や簡単な覚書だけで提携を始めてしまうことも少なくありません。そのような場合、時間の経過や事業環境の変化により、当初は想定していなかったトラブルに発展し、大きな負担となることがあります。
本記事では、店舗同士で業務提携を行う際に、どのような点を業務提携契約書に盛り込むべきか、またどのような法的視点を持っておくべきかについて、専門家の立場から解説します。これから提携を検討している方はもちろん、すでに提携をしている方の見直しにも役立つ内容として、業務提携を成功させ、安定した事業運営につなげるためのポイントをお伝えしていきます。
2 この記事でわかること
この記事を最後までお読みいただくことで、店舗同士の業務提携契約について、次のような点を整理してご理解いただけます。
まず、業務提携契約を結ぶ際に考えておくべき基本的な考え方と、提携内容を契約書に落とし込む際に押さえるべき重要事項のイメージがつかめます。単に「一緒にやりましょう」という抽象的な合意ではなく、日々の運営レベルに落とし込んだ具体的な取り決めがなぜ必要なのかが見えてきます。
次に、提携解消時に起こりがちなトラブルを、架空事例を用いて具体的に確認していきます。どこに抜けや曖昧さがあったのか、何を契約書に書いておくべきだったのかを、実務目線で振り返ることで、自社の契約書の改善点も見えやすくなります。
さらに、業務提携契約書を作成するうえで重要となる三つの法的概念を取り上げ、その意味と実務上の位置付けを整理します。業務分担の範囲、解除条件、損害賠償といったキーワードを、条文の趣旨も踏まえて理解することで、契約内容の妥当性を判断しやすくなります。
最後に、実際の条項例のイメージとともに、「なぜ専門家に相談することが結果的にコスト削減につながるのか」という点についてもお話しします。公正証書化を含めた強い契約の形を検討している方にとっても、判断の材料となる内容を目指しています。
3 店舗同士の業務提携がこじれた架空事例
ここでは、業務提携契約書の重要性を実感していただくために、一つの架空事例を取り上げます。実在の企業や人物をモデルにしたものではありませんが、現場で起こり得る典型的なパターンを整理したケースです。
都心で質の高いフィットネスジムを運営するA社は、地域での知名度も高まり、会員からの評価も上々でした。一方、B社は、同じエリアでオーガニック食材を中心としたカフェを経営しており、健康志向の顧客層との親和性が高い店舗でした。
あるとき、A社とB社の代表者が縁あって知り合い、「会員の利便性向上」と「相互の集客強化」を目的として、業務提携を行うことになりました。具体的には、A社ジムの受付スペースの一部をB社が利用し、スムージーなどの健康飲料を販売する代わりに、B社のカフェではA社ジムの会員証を提示すると飲食代が割引になる、という内容でした。
契約書は一応作成されたものの、インターネットで見つけたひな形を基にした簡易的なものでした。特に、「提携を解消する場合の手続き」や「ジム受付スペースの利用に関する費用負担の詳細」については、ほとんど触れられていませんでした。当初の友好的な関係を前提に、「そこまで細かく決めなくても大丈夫だろう」と考えてしまったのです。
提携開始からしばらくの間は、双方にとってメリットも大きく、関係も円滑でした。しかし、1年ほど経過した頃、A社ジムの会員数が増え続け、受付スペースの拡張が急務となりました。A社は、B社に対して販売スペースの縮小や別場所への移転を提案しましたが、B社は、現在のスペースでの売上を前提に事業計画を組んでいたことから、強く難色を示しました。
やがて、A社からは「一定期間の経過後であればスペースを明け渡してもらえるはずだ」という認識とともに立ち退きの要求がなされ、一方でB社は「少なくとも契約開始から三年間は現在のスペースで営業できると理解していた」と主張するなど、双方の認識のズレが一気に表面化しました。さらに、B社が初期投資として支出した什器や内装費用の取り扱いをめぐっても意見が対立し、感情的な対立へと発展していきました。
最終的に、両社の信頼関係は回復しないまま提携は解消されましたが、後味の悪さと、双方にとっての経済的・心理的損失だけが残りました。この事例で問題となったのは、提携開始時の良好な関係に安心し、将来の変化や解消時の手続きといった「出口戦略」を契約書に明記しなかったことです。
業務提携契約書は、関係が順調なときにはその存在を強く意識しないかもしれません。しかし、関係が揺らいだとき、あるいは解消を検討せざるを得なくなったときこそ、その真価が問われます。友好な関係を想定するだけでなく、「もし関係が悪化したらどうするか」という視点をあらかじめ盛り込んでおくことが、双方を守るための重要な備えとなります。
4 店舗の業務提携契約で押さえたい三つの法的ポイント
店舗間の業務提携契約を作成するにあたり、提携の内容や形式に応じて、いくつかの法的観点を意識しておく必要があります。特に、店舗スペースという物理的な場所の利用が絡む場合には、用語の選び方や条項の書き方次第で、将来的な紛争の結論が大きく変わることもあります。
まず押さえておきたいのが、「業務分担の範囲」という考え方です。これは、提携する各当事者がそれぞれどのような役割を担い、どこまでの責任を負うのかを契約書上で明確にしておくものです。例えば、一方がサービス提供を担当し、他方が集客や宣伝を担当する場合、それぞれの業務内容、費用負担の割合、クレーム発生時の対応窓口、サービス品質に問題があった場合の責任の所在などを具体的に定めておく必要があります。この点が曖昧なままだと、トラブル発生時に「その対応はそちらの責任ではないか」という押し付け合いが生じやすくなります。
次に重要なのが、「解除条件」です。契約をいつ、どのような理由で終了させることができるのか、というルールをあらかじめ決めておく条項です。上記の架空事例のように、「何となくいつでもやめられるだろう」といった理解のままにしておくと、後になって大きな対立の火種となります。「相手方が契約上の義務を履行しなかった場合」「一定期間売上が目標に達しなかった場合」「店舗の移転・閉店を行う場合」など、具体的な解除事由を列挙し、解除の際の予告期間や、既に発生した費用・投資の取り扱いについても定めておくことが望ましいと言えます。
三つ目のポイントが、「損害賠償」です。これは、契約に違反する行為があった場合に、どこまでの損害を補償するのかを定める条項です。民法第415条は、債務不履行があった場合に損害賠償を請求できる原則と、その責任が免除される例外的な場合とを規定しています。店舗同士の業務提携では、相手方の行為によって自社の売上が減少したり、信用が傷ついたりする場面も想定されますが、そのような損害がどこまで賠償の対象となるかは、契約書の記載によって左右されることがあります。
例えば、「逸失利益をどこまで含めるのか」「賠償額に上限を設けるのか」「損害が生じた際の協議手続をどうするのか」といった点は、あらかじめ合意しておくべき重要な事項です。契約書で一定の枠組みを設けておけば、万一トラブルが発生しても、当事者双方が事前に共有していたルールに沿って解決を図ることができ、紛争の長期化を防ぐ効果が期待できます。
5 業務提携を長続きさせるための契約条項イメージ
業務提携契約書を通じて提携関係を安定させるためには、当事者同士の期待値をできる限り揃えておくことが重要です。そのためには、抽象的な表現を避け、「いつ」「誰が」「何を」「どの程度行うのか」といった点を具体的に記載していく必要があります。
例えば、提携店舗間で集客活動を分担する場合の条項イメージとしては、次のような内容が考えられます。ここでは、フィットネスジムとカフェが連携するケースを想定し、業務分担と協力内容を文章として表現しています。
甲は、自己の運営するフィットネスジムの会員に対し、乙の運営するカフェの割引サービスに関する情報を、毎月二回以上、電子メールその他の方法により告知するものとする。乙は、甲のジムの案内チラシをカフェ店舗内のレジ周辺およびテーブル上に常時設置し、来店客に対して甲のジムのサービス内容を積極的に紹介するものとする。甲及び乙は、共同で実施する集客キャンペーンについて、その実施期間、費用負担の割合及び目標とする集客数を別途書面で合意し、当該合意内容に基づき誠実に業務を遂行するものとする。
このように記載することで、双方が「何となく協力する」のではなく、「どの程度の頻度で」「どの媒体を使って」協力するのかが明確になります。これに加え、提携期間、更新の有無、途中解消時の手続きや費用精算の方法なども具体的に取り決めておけば、将来的なトラブルの芽をかなりの程度まで摘み取ることができます。
契約書は、現時点の関係性だけを前提とするのではなく、「関係が変化する可能性」も見据えながら作成することが重要です。提携開始時には想像していなかったような事態に直面したとき、冷静に立ち返ることのできる拠り所が、適切に作り込まれた業務提携契約書だと言えます。
6 業務提携契約書・公正証書作成は行政書士への相談を
業務提携契約書の作成は、単にインターネット上のひな形に情報を当てはめる作業ではありません。それは、あなたの事業の将来像とリスクを見据えながら、どのようなルールで相手方と付き合っていくのかを定める、重要な設計作業です。提携当初は信頼関係が厚くても、時間の経過や事業環境の変化、担当者の交代などによって、関係性が変わっていくことは珍しくありません。
契約書は、友好な関係を支える「共通ルール」であると同時に、関係が悪化したときの「冷静な解決の指針」としての役割も持っています。特に、店舗スペースの利用や金銭的な負担が絡む業務提携では、第三者である専門家が客観的な視点から最悪の事態を想定し、それに備えた条項を盛り込んでおくことが、事業を守るうえで不可欠です。
初期段階での契約書作成にかかる手間や費用を抑えようとして、結果的に大きなトラブルや紛争に発展してしまえば、失うものははるかに大きくなってしまいます。リスクマネジメントの一環として、業務提携を検討する段階から、行政書士などの専門家に相談し、ビジネスの実情に即したオーダーメイドの契約書を整備しておくことを強くお勧めします。
当事務所では、さまざまな業種・業態の契約書作成に携わってきた経験を基に、お客様のビジネスモデルに合わせた実効性の高い業務提携契約書の作成をサポートしています。また、金銭の支払いや債務の履行を確実に担保する必要がある場合には、公証役場での手続きを経て公正証書とすることで、将来的な不履行時に強制執行が可能となる形に整えることも視野に入れたご提案が可能です。
業務提携に関するご相談や契約書の新規作成、既存契約の見直し、公正証書化に関するご質問などがございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。お問い合わせフォームや公式LINEからご連絡いただければ、内容を確認し、できる限り迅速な回答を心がけて対応いたします。店舗間の連携を安心して進めていけるよう、法的な側面から全力でサポートさせていただきます。




