男性育休は就業規則なしでも取得可能 法的な根拠と手続きの全知識
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はじめに
この度、数ある情報の中から当ブログ記事をご覧いただき、誠にありがとうございます。
近年、社会全体で男性の育児参加の重要性が認識され、それに伴い、育児休業に関する法制度の整備が進んでいます。しかし、特に中小企業においては、急な法改正への対応が追いつかず、男性の育児休業(以下 育休)に関する規定が、最新の法律の要求水準を満たしていない、あるいは就業規則に明確な記載がない、という状況も少なくありません。
会社に男性の育休に関する就業規則や規定がない場合、ご自身が育休を取得できるのか、また、会社側はどのような対応を取らなければならないのか、不安に感じられる方もいらっしゃるでしょう。
本稿では、企業の就業規則で整備がされていなくても、法律に基づいて男性が育休を取得できる根拠を明確にし、その法的な手続きと、企業が負うべき義務について、法律の条文を引用しながら丁寧に解説いたします。
この記事でわかること
この記事をお読みいただくことで、以下の3点が明確にご理解いただけます。
- 企業の就業規則に男性育休の規定がなくても、法的に育休を取得できること。
- 育休取得の根拠となる法律の条文とその詳細な解説。
- 育休を申請する際の具体的な手続きと、企業(事業主)の法的な対応義務。
事例 就業規則がない会社で育休取得を巡るAさんの不安
これはあくまで架空の事例です。
IT企業でシステムエンジニアとして働くAさん(30歳)は、妻の妊娠がわかり、出産予定日が近づくにつれて、育児休業の取得を検討し始めました。Aさんの会社は、社員数50名ほどの中規模企業で、就業規則は一応存在しているものの、人事担当者も設置されておらず、規定が古いままになっているという漠然とした認識がありました。
Aさんはインターネットで情報を集め、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(通称 育児介護休業法)という法律があることは知っていました。しかし、会社の総務部門に育休について相談したところ、総務担当者からは「当社の就業規則には、男性の育休に関する具体的な規定がまだ整備されていません。前例もありませんし、一度社長に確認してみないと何とも言えません」という曖昧な回答しか得られませんでした。
Aさんは、自分は法律上育休を取得できるはずなのに、会社の規定がないことを理由に拒否されてしまうのではないかと不安に感じました。会社のプロジェクトも佳境に入っており、上司からは「できれば休まないでほしい」という無言のプレッシャーも感じていました。Aさんは、会社の就業規則に規定がなくても、自分は法的に育休を取得できるのか、そして、もし取得できるとして、具体的に会社に何を伝え、どのような手続きを踏むべきなのかを知りたいと考えました。
法的解説 育児休業取得の根拠と2つの専門用語
結論から申し上げますと、Aさんのようなケースであっても、会社の就業規則に男性の育休に関する規定が整備されていなかったとしても、法律の定めにより育児休業を取得することは可能です。
これは、育児休業の制度が、個別の企業の取り決めである就業規則よりも上位にある、法律によって労働者に保障された権利だからです。この権利を定めているのが、「育児介護休業法」です。
育児休業取得の法的根拠
育児介護休業法は、労働者が仕事と育児や介護の両立を図ることを目的としており、その核となる条文の一つに、育児休業の取得資格に関する規定があります。
法律の条文は、以下の通りに定められています。
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
第三条 事業主に雇用される労働者は、その申出により、子の養育をするための休業をすることができる。
この第三条第一項が、育児休業を取得する権利の直接的な根拠となります。ここで重要なのは、「事業主に雇用される労働者は、その申出により、…休業をすることができる」とある点です。つまり、企業が個別に就業規則を定めているか否かにかかわらず、労働者が申出を行えば、原則として休業を取得できることが法律で定められています。
この法律には、育休の対象となる労働者の範囲や、休業期間、申出の期限など、具体的な手続きに関する詳細も定められていますが、基本原則として、労働者の「申出」を起点に、この権利が発生することが理解できます。
専門用語の解説 申出とは
専門用語の一つ目として、法律の条文にも登場する「申出」について詳しく解説します。
育児介護休業法における「申出」とは、労働者が育児休業を取得したいという意思を、事業主に対して明確に伝える行為を指します。これは、単なる口頭での相談や意向表明とは異なり、法律上、特定の様式や期限に従って行われるべき手続きです。
具体的には、原則として休業開始予定日の1ヶ月前までに、書面など(会社が定めている場合は電磁的記録も含む)によって事業主に届け出ることが必要とされています。この申出を適切に行うことで、労働者の育休取得の権利が具体的に行使され、事業主にはそれを受理し、休業を認めなければならない義務が生じます。
就業規則がない場合でも、この「申出」を法律の規定通りに行うことで、企業側は法律上の義務として育休を拒否できなくなります。
専門用語の解説 事業主の責務とは
二つ目の重要な専門用語は「事業主の責務」です。これは、企業(雇用主)が負っている法律上の義務を包括的に示す言葉です。
育児介護休業法は、労働者の権利を定めるだけでなく、企業側にもいくつかの義務を課しています。これらは「事業主の責務」として総称されます。主な責務としては、以下のものが挙げられます。
- 育児休業の申出を拒否しないこと(法に定める例外的な場合を除き、申出を拒否してはならない義務)
- 円滑な取得のための環境整備(育児休業に関する研修、相談窓口の設置、制度や方針の周知など)
- 不利益な取扱いの禁止(育休申出・取得を理由とする解雇、降格、減給などの禁止)
就業規則が未整備であることは、この「円滑な取得のための環境整備」という責務を十分に果たしていない状況にあるとも言えます。法律は、個別の企業の規定の有無にかかわらず、企業に最低限、これらの責務を果たすことを求めているのです。
企業側のリスクと専門家の役割
就業規則は、労働条件や服務規律などを明確にし、労使間のトラブルを未然に防ぐための「会社のルールブック」です。育児休業に関する規定が未整備である、または法律の改正に追いついていない場合、以下のような問題が発生しやすくなります。
- トラブルの発生:休業期間や手続き、休業中の待遇などについて認識のずれが生じ、「法律では取れるはずなのに、会社が認めない」という深刻な労使トラブルに発展する可能性があります。
- 法的なペナルティのリスク:育児休業の取得を不当に拒否した場合や、義務付けられた環境整備を行っていない場合、厚生労働大臣による助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わない場合は企業名が公表されるなど、社会的信用を失う可能性があります。
労働者は、法律を根拠に申出をすれば育休を取得できますが、企業としては、法律で定められた取得要件、手続き、そして環境整備義務を確実に履行するため、就業規則を最新の法律に合わせて整備する必要があります。また、育休制度の柔軟な運用を可能にする労使協定の締結も、円滑な制度運用に不可欠です。
当事務所のような行政書士は、こうした最新の法改正を踏まえた就業規則の作成・変更や、育児休業に関する労使協定の作成を通じて、企業が法的な義務を果たすことをサポートし、安心して事業活動が行えるよう環境を整備する専門家です。
まとめ
男性の育児休業は、企業の就業規則の有無にかかわらず、「育児介護休業法」という法律によって保障された労働者の権利です。就業規則がない場合でも、労働者は法律の定める手続き、すなわち「申出」を行うことで、育休を取得できます。
しかし、企業側の視点で見れば、就業規則が未整備であることは、法的なリスクや労使間のトラブルを招く原因となり、企業イメージの低下にもつながりかねません。法律の専門用語である「事業主の責務」にもある通り、企業は労働者が円滑に育児休業を取得できる環境を整備する義務を負っています。




