育児休業の申請と社会保険料免除の仕組み 育休中の生活設計に必要な知識
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はじめに
この度は、当事務所のブログにお越しいただき、誠にありがとうございます。私は、契約書の作成や公正証書の作成を主な専門分野とする行政書士です。皆様が安心して日常生活や事業活動を送れるよう、法的知識に基づいたサポートを提供しております。
特に、人生の大きな転機である出産や育児に際しては、様々な制度の理解や手続きが必要となります。その中でも、育児休業制度は、仕事と育児の両立を図る上で非常に重要なものです。しかし、「申請すれば誰でも取れるのか」「お金の面はどうなるのか」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。このブログでは、育児休業、特にその申請手続きや、育児休業中の生活を支える経済的な側面について、行政書士の視点から詳しく、かつわかりやすく解説いたします。
この記事でわかること
この記事をお読みいただくことで、以下の点についてご理解いただけます。
- 育児休業を取得できる労働者の具体的な要件
- 育児休業期間中の社会保険料免除の仕組みとその経済的メリット
- 育児休業給付金が実際に振り込まれるまでの期間と、それに備えるための注意点
- 育児休業制度に関する法的な根拠とその解説
これらの知識は、ご自身やご家族の育児休業の計画を立てる際、また、企業の労務担当者様が従業員への適切な情報提供や手続きを行う際にも、必ず役立つものです。
事例 長めの架空事例を一つ
これはあくまで架空の事例です。
A社の正社員として勤続5年になるBさん(32歳、男性)は、まもなく第一子が誕生する予定です。妻のCさんも同じく正社員として働いていますが、BさんとCさんは二人で相談し、出産後しばらくはBさんが主に育児休業を取得し、妻のCさんは比較的早めに仕事に復帰するという計画を立てました。Bさんは、会社の上司に育児休業を取得したい旨を申し出たところ、「正社員だからもちろん取得できるよ。ただし、給料が出なくなるから生活は苦しくなるんじゃないか?」という反応がありました。
Bさんは、育児休業を取得すること自体には安心しましたが、金銭面での不安が残りました。インターネットで調べてみると、「育児休業期間中は社会保険料が免除になる」という情報を見つけましたが、具体的にどれほどの経済的なメリットがあるのか、また、生活を維持するために支給されるという「育児休業給付金」がいつ、いくら振り込まれるのかがわかりませんでした。Bさんは、社会保険料の免除によって手取りがどれくらい変わらないのか、給付金が振り込まれるまでの期間は、預貯金で乗り切れるのかどうかなど、具体的な生活設計を立てるために、正確な情報を必要としています。特に、会社からは育児休業を取得する旨の申請書を提出するように言われましたが、その手続きの際にどのような点を注意すればよいのかについても知りたいと考えています。
法的解説、専門用語があればその解説
この事例におけるBさんの疑問を解消するために、育児休業制度の根幹となる法的な側面と、その関連用語について解説します。
専門用語の解説 育児休業と育児休業給付金
ここで解説する専門用語は、「育児休業」と「育児休業給付金」の二つです。
まず、育児休業についてです。これは、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(略して「育児・介護休業法」)に基づいて、原則として1歳未満の子どもを養育する労働者が、会社に申し出ることによって取得できる休業期間のことです。この制度の目的は、労働者が子の養育をしながら職業生活を継続できるように支援することにあります。Bさんのように正社員であれば、この法律の対象となり、原則として申し出れば取得することが可能です。ただし、細かい要件として、例えば「引き続き雇用された期間が1年未満である者」など、取得できない例外的な労働者も定められています。Bさんは勤続5年ですので、これらの例外規定に該当しない限り、制度を利用できます。
次に、育児休業給付金です。これは、雇用保険の被保険者が育児休業を取得した際に、生活の安定を図るために支給される給付金です。会社から給与が支払われない期間に、雇用保険から給付されるものです。この給付金は、育児休業開始から6か月間は、原則として休業開始前の賃金の67パーセント、それ以降は50パーセントが支給されます。この給付金の財源は、毎月給与から天引きされている雇用保険料です。Bさんの生活設計において、この給付金の支給額と支給時期は極めて重要な要素となります。
育児・介護休業法とその条文
育児休業の根拠となる法律は、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」です。この法律の中に、育児休業を取得できる労働者の要件や、会社への申し出の方法などが定められています。Bさんのような正社員が育児休業を取得できる根拠となる条文の一つとして、この法律の第5条第1項があります。
条文を引用します。
第五条 事業主は、労働者(日雇労働者その他厚生労働省令で定める労働者を除く。)が申し出たときは、当該労働者について、その一歳に満たない子を養育するための休業をさせなければならない。ただし、労働者からの申出は、当該子の出生の日から起算して八週間を経過する日の翌日から当該子がその一歳に達する日までの間について、できるものとする。
この条文の解説ですが、条文には「事業主は、労働者が申し出たときは」「休業をさせなければならない」と明確に定められています。これは、原則として労働者からの育児休業の申し出があれば、会社側は拒否できないことを意味しています。Bさんは正社員であり、「労働者」に該当します。そして、「その一歳に満たない子を養育するため」の休業であるため、Bさんの育児休業取得は、この条文によって会社に義務付けられているということになります。また、「日雇労働者その他厚生労働省令で定める労働者を除く」という但し書きがあることから、全ての労働者に適用されるわけではないことがわかります。Bさんのように勤続年数も十分にある正社員は、この除外規定に該当しないため、問題なく育児休業を取得できます。
社会保険料免除の仕組み
Bさんがインターネットで見つけた「育児休業期間中は社会保険料が免除になる」という情報は正確です。ここでいう社会保険料とは、健康保険料と厚生年金保険料のことを指します。
育児・介護休業法に基づいて育児休業を取得した場合、労働者本人負担分だけでなく、会社負担分も含めた社会保険料の全額が、育児休業期間中に限り免除されます。これは、健康保険法および厚生年金保険法に規定されている特例措置です。この免除を受けるためには、会社を通じて年金事務所や健康保険組合へ届出を行う必要があります。
この社会保険料免除のメリットは、Bさんが心配している「手取り」に大きく影響します。Bさんの会社から給与が全く支払われない場合、通常であれば社会保険料の支払いも発生しませんが、育児休業給付金が支給される際、そこから保険料が引かれることはありません。つまり、給与がない期間であっても、将来受け取る年金額を計算する上では保険料を納付したものとして取り扱われるにもかかわらず、その期間の保険料の負担はゼロになるのです。
育児休業給付金は、休業前の賃金の67パーセント(6か月以降は50パーセント)が支給されますが、この給付金には所得税がかからず、また、この給付金からは社会保険料も控除されません。
仮に、Bさんの休業前の手取り額が額面給与の約80パーセント程度だったとします。休業前賃金の67パーセントが給付金として非課税・非控除で支給されると、免除される社会保険料の額を考慮すると、実際の生活レベルを維持するために必要な可処分所得は、想像以上に落ちないというケースが多くなります。給付率が67パーセントであっても、社会保険料の免除という大きな経済的支援があるため、Bさんの上司が懸念したほど生活が苦しくなる可能性は低いと言えます。
給付金振込までの注意点
Bさんの不安の一つに、「実際に給付金が振り込まれるまでの時間がかかる」という点があります。これは、育児休業給付金の制度上の特性として、非常に重要な注意点です。
育児休業給付金は、原則として2か月ごとに支給されます。具体的には、会社がハローワークに対して、育児休業の開始から2か月ごとに申請手続きを行い、その申請が審査されてから支給決定が行われます。このため、育児休業を開始してから最初の給付金が振り込まれるまでには、早くても2か月から3か月程度の期間を要することが一般的です。
このタイムラグの間は、会社からの給与も支給されず、給付金もまだ振り込まれていない「無収入期間」となってしまいます。Bさんは、この期間の生活費を預貯金などで賄う必要があります。具体的な生活設計を立てる際には、この初期の無収入期間を乗り切るための資金計画を事前にしっかりと準備しておくことが不可欠です。
Bさんが行うべきこととして、まず会社に対して遅滞なく育児休業の申し出を行い、会社側がハローワークへの申請手続きをスムーズに行えるよう協力することが重要です。また、会社の担当者と密に連携を取り、最初の給付金の申請日や振込予定日を確認しておくことが、不安を解消する上で役立ちます。
記事のまとめ
育児休業は、正社員であるBさんが申請すれば、原則として取得できる国の制度です。これは、育児・介護休業法という法律に基づいて、会社に義務付けられている措置です。
経済的な側面についても、育児休業期間中は、健康保険料と厚生年金保険料といった社会保険料が全額免除になるという大きなメリットがあります。この免除措置は、育児休業給付金が非課税で支給されることと相まって、Bさんの手取り額、すなわち可処分所得の落ち込みを大幅に抑える効果があります。上司が懸念したほどの生活レベルの低下は、多くの場合、生じにくいと言えます。
しかし、最も注意すべき点は、育児休業給付金が実際に振り込まれるまでに時間がかかるという点です。最初の給付金を受け取るまでに2か月から3か月の期間を要することが多いため、Bさんは、この期間の生活費を賄うための事前の資金準備が必要不可欠となります。
育児休業の申請手続きや社会保険料の免除手続きは、会社の協力のもとで行われますが、法的な要件の確認や、公正証書作成による養育費等の取り決めなど、育児に伴う様々な法的・行政的な手続きが必要となる場合もございます。契約書作成や公正証書を専門とする行政書士として、育児休業に伴う諸手続きのアドバイスや、将来の養育に関する公正証書の作成サポートなど、皆様の安心した育児生活を支えるための専門的な支援を提供できます。育児休業は、人生の重要な転機であり、しっかりと制度を理解し、計画的に準備を進めることが、円滑な育児と仕事の両立を実現するための鍵となります。




