IPO準備で陥りがちな内部統制の文書不備と行政書士の活用

1 はじめに

新規株式公開、通称IPOは、企業の成長を示す大きな節目であり、多くの経営者が目指す目標です。上場を果たすためには、事業の成長性や収益性に加えて、内部統制の整備と運用が極めて重要になります。しかし、事業拡大に注力するあまり、この内部統制の整備が後手に回り、結果として上場審査で「不備」の指摘を受けてしまうケースが少なくありません。特に、日々の業務を裏付ける文書(契約書、規程、議事録など)の不備や欠如は、内部統制の脆弱性を強く印象づけ、上場準備を長期化させる要因となります。

2 この記事でわかること

この記事では、IPO準備における内部統制の重要性を改めて確認し、多くの企業が見落としがちな文書化に関する具体的な不備の事例をご紹介します。次に、それらの不備が法律上どのような問題を引き起こすのかを専門的に解説します。そして、IPOを成功させるために、なぜ専門家による客観的な文書整備が不可欠なのか、その視点をお伝えします。

3 ドキュメントの不備が招いた上場準備の落とし穴

ここに、ある成長企業A社の事例をご紹介します。これは架空の事例ですが、実際に多くの企業で発生しうる具体的な問題です。

A社は急成長を遂げ、満を持してIPO準備を開始しました。事業の拡大に伴い、多くの新規顧客との取引が増加し、同時に複数の重要なプロジェクトが並行して動いていました。ところが、上場審査に向けた内部統制の構築過程で、複数の深刻な文書の不備が指摘されてしまいました。

重大な取引契約書の管理不備
売上の多くを占める主要顧客との取引契約書が、最新の取引実態を反映しておらず、中には署名・押印が漏れているもの、またはそもそも書面が存在せず、口頭の合意のみで取引が行われていたものが散見されました。

さらに、契約書の保管場所が部署ごとにバラバラで、必要なときにすぐに取り出せない状況でした。これは「契約管理規程」が存在しないか、あっても形骸化していることを示していました。

取締役会議事録の形式的・実質的な不備
事業上重要な投資や借入、さらには取締役の報酬改定といった経営判断について、取締役会での議論や決定の過程が議事録に十分に記録されていませんでした。

特に重要な決定事項について、「議事録の作成はしたが、会社法が要求する記載事項が網羅されていない」「出席した取締役の署名・押印が揃っていない」などの形式的な不備も指摘されました。

これにより、経営陣の意思決定プロセスが不透明であると見なされ、コーポレートガバナンスが機能していないという厳しい評価を受けました。

各種内部規程の未整備
経理規定や購買規定といった業務を標準化するための基本となる規程が、企業の成長スピードに追いついておらず、実態に合わない古いまま放置されているか、そもそも存在しないものが多くありました。

これにより、社員の業務遂行が属人的になり、不正や誤謬(間違い)が発生しやすい状況、すなわち「統制環境の欠如」と判断されました。

結果として、これらの文書の不備は、会社が資産を適切に管理し、不正を防止し、経営判断を適正に行っていることを第三者に証明できない大きな障害となり、A社のIPO審査は大幅に遅延することとなりました。

4 会社を守る内部統制の根拠と文書の重要性

内部統制の不備は、単に「書類が整っていない」という形式的な問題に留まらず、法律上の責任や企業の信頼性といった根幹に関わる問題です。ここでは、内部統制を語る上で理解しておくべき三つの重要な法的概念について解説します。

内部統制
内部統制とは、企業が事業活動を有効かつ効率的に行い、財務報告の信頼性を確保し、事業活動に関わる法規を遵守し、資産の保全を図るために、企業内部で整備・運用される体制や仕組みのことを指します。

金融商品取引法(金商法)では、上場会社に対して、この内部統制の有効性に関する評価報告書の提出を義務付けています。IPO審査においても、この体制が適切に整備され、機能しているかどうかが厳しくチェックされます。契約書や規程は、まさにこの体制の具体的なルールブックであり、業務の正当性を示す「証拠」となるものです。これらの文書が不備であれば、体制自体が機能していないと見なされます。

開示制度
上場会社は、投資家に対して会社の経営状態や財務状況を正確に伝える義務があり、そのために有価証券報告書などの書類を提出することが金融商品取引法で定められています。これを開示制度といいます。

内部統制の不備は、この開示書類に含まれる情報(特に財務情報)の信頼性を揺るがすことになります。例えば、適切な経理規程がなく、取引の記録が曖昧であれば、財務諸表の数字が正しいと証明できません。契約書が不明確であれば、将来的な収益やリスクの予測も困難になり、投資家保護の観点から問題となります。

善管注意義務
会社法において、取締役をはじめとする会社の役員は、会社に対して善良な管理者としての注意義務をもって職務を遂行する義務を負います。これを善管注意義務といいます。

適切な内部統制を整備し、企業活動におけるリスクを管理することは、まさしくこの善管注意義務を果たすために不可欠な要素です。重大な取引に関する契約書や重要な経営判断に関する議事録が不備であることは、取締役が会社に対し十分な注意を払わず、職務を怠ったと解釈される可能性があり、最悪の場合、取締役の責任が追及されることにもなりかねません。

例えば、会社法においては、取締役会の議事録の作成・備置きについて厳格に定められています。

会社法第三百六十九条第三項
取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成しなければならない。

この条文は、取締役会で何が議論され、どのように決定されたのかという、会社の意思決定の「証拠」を必ず残すことを義務付けています。この議事録に不備があれば、その決定自体が法的に問題視されるリスクを負うことになります。専門家によるサポートは、これらの法律の要求事項を満たし、企業の法的リスクを未然に防ぐために非常に有効なのです。

5 内部統制文書の確実性を高める専門家の視点

IPO準備において、社内の人員だけで内部統制に関する文書を完璧に整備することは、大きな負担とリスクを伴います。日々の業務に追われ、法律の専門知識や客観的な視点が不足しがちだからです。

ここで重要なのは、内部統制の基盤となる契約書、規程、議事録などの書類作成は、手間や費用を惜しむべきではないということです。これらの文書は、会社のルールブックであると同時に、法的な紛争や上場審査において、会社の正当性を示す「盾」であり「矛」となります。

企業内部の人間では見過ごしがちな文書の不備や、法律上の要件の抜け漏れは、第三者である専門家、例えば行政書士のような法律文書作成の専門家に依頼することで、客観的な視点と専門的な知識をもって徹底的にチェックし、是正することができます。

特に、契約書が取引実態を正確に反映しているか、リスク条項が適切に盛り込まれているか、議事録が会社法の要件をすべて満たしているかといった点について、専門家のチェックを受けることで、内部統制の文書化の確実性を飛躍的に高めることが可能です。

6 IPOを成功に導くための行政書士への相談のススメ

IPO準備における内部統制の整備、特に基盤となる各種文書の作成と見直しは、法律家の専門性が最も活かされる分野の一つです。

弊所は、契約書作成や各種規程整備の専門家として、IPOを目指す企業の皆様のサポートに注力しております。皆様の企業活動を法的に裏付け、上場審査をスムーズに通過できる堅固な内部統制の構築をお手伝いいたします。

もし、貴社で「古い契約書がそのままになっている」「業務規程がない、または形骸化している」「重要な意思決定の議事録の作成に不安がある」といったお悩みやご懸念があるようでしたら、ぜひ一度ご相談ください。

お問い合わせは、お電話はもちろん、ラインやお問い合わせフォームからも受け付けており
ます。ご相談いただいた内容については、迅速かつ丁寧にご対応いたします。返信の速さには自信を持っておりますので、お急ぎの場合もご安心ください。

皆様のIPO成功に向けて、専門家として全力でサポートさせていただきます。最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。