BtoB SaaSの利用規約作成を行政書士に依頼するメリット 企業間取引のリスク対応策を解説

はじめに

このブログにお越しいただき、ありがとうございます。SaaS(サービスとしてのソフトウェア)の普及に伴い、その基盤となる利用規約の重要性がますます高まっています。特に企業同士の取引となるBtoB SaaSにおいては、消費者向けの規約とは異なる高度なリスクマネジメントが求められます。

利用規約は単なるルールの羅列ではありません。それは、貴社と顧客企業との間で起こり得るあらゆる摩擦や予期せぬ事態を事前に想定し、サービスの安定提供と、万一の際の貴社の責任範囲を明確に線引きするための、最も重要な法的文書です。

この記事は、BtoB SaaS事業を運営されている経営者様や法務担当者様、またこれからサービスを開始しようとされている起業家の方々を主な読者として想定しています。法律の専門用語が多少出てまいりますが、ご自身の事業のリスクを正しく把握し、適切な利用規約を作成するためのヒントとして、最後までお読みいただければ幸いです。

この記事を読むとわかること

この文章をお読みいただくことで、貴社のBtoB SaaS事業の利用規約を考える上で必要な、次の三つの重要な視点を得ることができます。

まず、BtoB取引特有のリスクを具体的に理解し、そのリスクが顕在化した場合の具体的な事例を把握できます。これにより、貴社のサービスが直面し得る潜在的な危険性をイメージできるようになります。

次に、利用規約において最低限盛り込むべき三つの法的論点について、行政書士の視点から具体的な解説を知ることができます。単なる雛形では対応できない、貴社独自のサービス形態に合わせた規約の重要性をご理解いただけるでしょう。

最後に、貴社の事業を安定的に成長させるため、専門家に行政書士への依頼がなぜ効果的であるか、費用対効果を含めたメリットが明確になります。手間や費用を惜しまずに、専門家の客観的な助言を得ることの価値が腑に落ちるはずです。

サービス提供中に発生したトラブル事例から見る利用規約の重要性

ここに一つの架空の事例を紹介します。これは、利用規約の不備が原因でSaaS事業者が大きな損害を被る可能性を示すものです。あくまで特定の企業を想定したものではなく、利用規約の重要性を理解するための事例としてお読みください。

ある中堅のSaaS開発会社A社は、企業向けの勤怠管理サービスを月額制で提供していました。サービスは順調に成長し、契約社数も伸びていました。ところが、ある日、契約先である大手製造業B社から連絡が入ります。

B社の担当者は、A社のサービスの障害により、締め日直前の従業員の勤怠データの一部が消失したと主張しました。これにより、B社は給与計算業務が大幅に遅延し、本来であれば翌日に支払う予定だった給与の振り込みが間に合わず、従業員から大きな不満が噴出するという事態になりました。

B社はA社に対し、サービスの月額利用料の返金だけでなく、給与遅延に伴う従業員への遅延損害金、そして何よりも「社会的な信用を失った」として、逸失利益を含む数千万円規模の損害賠償を請求してきました。

この時のA社の利用規約は、市販の雛形をベースにした簡易なもので、主にBtoCを想定した一般的な内容しか含まれていませんでした。特に、システム障害が発生した場合の「免責事項」に関する定めが曖昧で、損害賠償の上限額についても明確な記載がありませんでした。

A社はシステムの不具合は事実ではない、データはサーバー上に残っていたはずだと主張しましたが、B社は「利用者が容易にアクセスできなくなった時点でサービス提供の義務違反だ」と譲りません。

結果として、裁判に発展するのを避けるため、A社は弁護士費用もかかり、和解金として相当額を支払わざるを得なくなりました。A社がもし、BtoB取引のリスクを十分に想定し、「免責の範囲」や「損害賠償の上限」を明確に定めた利用規約を準備していれば、このような巨額な請求には発展しなかった可能性が高いのです。

BtoB SaaS利用規約で定めるべき3つの法的論点とその解説

先の事例で示したように、BtoBの利用規約では、トラブル発生時の責任の所在と範囲を明確にすることが肝要です。ここでは、特に重要な三つの法的論点を取り上げ、その解説を行います。これらは、弁護士法に抵触しない範囲での一般的な法的知識の提供であり、個別具体的な事案への助言は、行政書士または弁護士に必ず相談して確認してください。

一つ目 契約不適合責任と免責
以前の民法では「瑕疵担保責任」と呼ばれていたものに代わり、現在の民法では「契約不適合責任」という言葉が使われています。これは、提供されたサービスや納品されたものが、契約内容に適合しない場合に負う責任のことです。SaaSにおいては、システム障害やバグ、機能の不足などがこれに該当する可能性があります。

BtoB SaaSでは、サービスが常に完全無欠であることを保証するのは現実的ではありません。そのため、利用規約において、いかなる事由をもって契約不適合と見なすか、そしてその場合の損害賠償の範囲を厳しく限定することが極めて重要です。具体的には、「軽微なバグや一時的な停止は契約不適合としない」、「当社の責めに帰すべき事由による損害賠償は、過去○ヶ月間の利用料金を上限とする」といった明確な定めを設ける必要があります。

二つ目 秘密保持義務の範囲
BtoB SaaSは顧客企業の機密情報や重要なデータを取り扱うことが常です。利用規約や別途の秘密保持契約において、貴社がどのような情報を「機密情報」として取り扱い、どのような期間・方法でこれを保護する義務があるかを詳細に定める必要があります。

特に、SaaS提供側がサービス改善のために顧客データの統計的分析を行う場合、それが機密情報の漏洩と見なされないよう、データの非特定化や匿名化の範囲を明確にし、規約にその利用目的を記載しておくことが必須です。

三つ目 サービスレベル保証(SLA)と不可抗力
サービスレベル保証、いわゆるSLA(Service Level Agreement)は、BtoB取引においてサービスの品質を客観的な指標で担保するものです。具体的には、「稼働率99.9%を保証する」といった形で、サービスの安定性を保証します。

しかし、自然災害やテロ行為、あるいは大規模なサイバー攻撃など、SaaS提供者側の責任ではない不可抗力によってサービスが停止することもあり得ます。この不可抗力によるサービス停止が、先の事例で見たような損害賠償請求の引き金とならないよう、規約には不可抗力の定義を明確にし、不可抗力による停止の場合には、一切の責任を免れる旨を定めておくべきです。

民法(債権関係)には、契約の基本となる条文があります。例えば、債務不履行(契約した内容を実行しないこと)に関する定めとして、次のような条文が存在します。

民法第415条
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき、又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

この条文は、債務者(SaaS提供者)がサービス提供という義務を果たせなかった場合、債権者(顧客企業)は損害賠償を請求できると定めています。しかし、「債務者の責めに帰することができない事由」による場合は、責任を負わないとも規定しています。

SaaSの利用規約で免責事項を詳細に定めることは、この「債務者の責めに帰することができない事由」の範囲を、契約当事者間で事前に明確に合意し、予期せぬリスクから事業者を守るために行うものなのです。この条文に照らして、貴社のサービス特性を踏まえた免責規定を設けることが、法的なリスクヘッジの根幹となります。

利用規約作成は手間や費用を惜しまず客観的な視点を取り入れるべき理由

多くの中小企業やスタートアップが、利用規約作成に際して、インターネット上のひな形をそのまま流用したり、他社の規約を参考にしたりしがちです。しかし、貴社独自のサービス内容、課金体系、サービス提供範囲、そして何よりも「BtoB取引のリスク」は、ひな形では決してカバーできません。

利用規約は、貴社のビジネスモデルと切っても切り離せない存在です。それは、貴社にとって最も不利な状況、つまり「顧客から訴訟を起こされた」「データが流出した」といった最悪の事態が発生した際に、貴社を守る最後の砦となります。

手間や費用を惜しんで不完全な規約を作成してしまうと、先の事例のように、いざトラブルが発生した際に、規約の不備が原因で事業の存続に関わるほどの賠償責任を負うことになりかねません。

契約書作成の専門家である行政書士は、貴社がサービスに込めた思いやビジネスモデルを客観的な視点からヒアリングし、「トラブルが起きないための予防」と「トラブルが起きた際の防衛策」の双方を織り込んだ、実効性の高い利用規約の作成をサポートします。法律の知識だけでなく、文書作成のノウハウを活かして、曖昧な表現を排し、誰にでも分かりやすい法的文書を作成することが可能です。

お客様のサービスを守るために行政書士がお手伝いできること

私は、契約書や公正証書の作成を専門とする行政書士です。貴社の素晴らしいBtoB SaaSサービスを、法的なリスクから守り、安心して事業を拡大できるようお手伝いすることが、私の使命だと考えています。

当事務所では、貴社の事業内容、特に顧客企業との関係性や、取り扱うデータの種類などを深く理解した上で、カスタマイズされた利用規約の草案作成、既存の規約の法的リスク診断と修正案の提示を承っております。

費用についても、法律相談から訴訟対応までを行う弁護士とは異なり、書類作成のプロフェッショナルとして、費用を抑えつつ専門性の高いサービスを提供できるのが行政書士の強みです。

貴社の利用規約に少しでも不安を感じていらっしゃるようでしたら、ぜひ一度、客観的な視点を取り入れてみてください。お問い合わせは、お電話だけでなく、ラインを利用してすぐにご相談いただけます。もちろん、返信は迅速に対応し、貴社の時間と機会の損失を防ぎます。

まずは貴社の事業内容をお聞かせください。初回のご相談で、貴社のサービスにとって真に必要なリスク対策をご提示させていただきます。

最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。