契約書を公正証書で作成する3つのメリット 実行力の強化と紛争予防の重要性
Contents
私文書と公文書 契約書の法的効力を高める選択肢
ビジネスや個人の生活において、何らかの合意を形成する際に「契約書」を作成することは、将来の紛争を防ぐための基本的なリスク管理です。しかし、契約書には、当事者同士が作成する私文書としての契約書と、公証役場という公的機関の関与を得て作成する公正証書という2種類があります。
私文書としての契約書も、当事者間の合意内容を証明するという点では重要な役割を果たしますが、その法的効力には限界があります。特に、相手方が契約内容、例えば金銭の支払いを履行しなかった場合、その契約書だけでは、すぐに財産を差し押さえるなどの強制的な措置を取ることができません。裁判所に訴訟を提起し、勝訴判決を得るという、時間と費用のかかる手続きを経る必要があるのです。
これに対し、公正証書は、法律の専門家である公証人が公証人法に基づいて作成する公文書であり、その作成には厳格な手続きが求められます。この手続きを経ることで、公正証書は単なる合意の証明にとどまらない、強力な法的効力を持ちます。
この記事では、契約書を公正証書として作成することによって得られる、私文書では決して得られない3つの具体的なメリットに焦点を当てて解説します。特に、金銭の支払いに関する契約において極めて重要となる「執行力」という概念を中心に、公正証書がどのように私たちの権利を守り、将来の紛争を予防するのかを詳しく見ていきます。
公正証書の法的効力とその実務上の活用法が明確になります
公正証書を作成する最大の目的は、その契約内容に「強い実行力」と「高い証明力」を持たせることにあります。この記事を最後までお読みいただくことで、読者の皆様は以下の点を明確に理解し、ご自身の契約書作成における最善の選択ができるようになります。
第一に、公正証書が持つ3つの法的優位性、特に「執行力」が具体的にどのような場合に、どのような手続きを省略して行使できるのか、その仕組みを知ることができます。これにより、単なる「強い契約書」という漠然としたイメージではなく、実務上のメリットを明確に把握できます。
第二に、公正証書を作成する上で中心的な役割を担う公証人という存在や、「強制執行」「債務名義」といった法律用語の意味を正しく理解し、法律の専門家としての視点を持つことができるようになります。
第三に、金銭債務の履行を確実に担保したい借用書や、離婚時の養育費・慰謝料の支払い契約など、どのような契約書を公正証書化すべきかという具体的な判断基準を得ることができます。これにより、費用対効果を考えた上で、ご自身の抱えるリスクに対して最適な備えをすることができます。
【事例】契約不履行に直面した時の強力な武器 執行証書の有無が分けた金銭回収の行方
これは、公正証書に「執行証書」としての効力を持たせていた場合と、そうでない私文書のみの契約書であった場合とで、金銭の回収に大きな違いが出た架空の事例です。あくまで公正証書の重要性を示すための事例としてご覧ください。
知人であるCさんがDさんに対して500万円を貸し付けたという事例を想定します。返済期限は1年後とし、利息も付けて、その合意内容を正式な契約書として作成しました。
ケース1 私文書としての契約書のみを作成した場合
CさんとDさんは、弁護士のひな形を参考にして、形式としては整った借用書を作成しました。しかし、返済期限を過ぎてもDさんからの返済は滞り、再三の催促にも応じなくなりました。Cさんは法的手段に訴えることを決意しましたが、まずDさんの財産を差し押さえるためには、裁判所に訴訟を提起し、Dさんに対して500万円の返済を命じる「勝訴判決」を得る必要がありました。訴訟には準備期間を含めて半年以上の時間と多額の弁護士費用がかかり、その間にDさんの財産が散逸してしまうというリスクも抱え続けました。ようやく判決を得た後も、Dさんの財産を特定し、差し押さえの手続きに入るという、非常に煩雑で時間のかかるプロセスを経なければなりませんでした。
ケース2 公正証書(執行証書)として作成した場合
もしCさんがDさんとの合意を、返済が滞った場合には直ちに強制執行に服するという「執行受諾文言」の入った公正証書として作成していたらどうでしょうか。Dさんが返済を滞納した時点から、Cさんは裁判所に訴訟を起こす必要がありません。この公正証書は、裁判所の確定判決と同じ「債務名義」としての効力を持つため、すぐに公証役場から債務者Dさんに対して公正証書の謄本を送達し、その後、簡易な手続きを経て、直ちにDさんの給与や預金口座などの財産を差し押さえるための「強制執行」の手続きに移ることができました。訴訟にかかる時間と費用、精神的な負担を一切負うことなく、迅速かつ確実に金銭を回収するための法的手段を確保できていたのです。
この事例は、契約書作成時の一手間、つまり公正証書化という選択が、将来の金銭回収における「スピード」と「確実性」にどれほど大きな差をもたらすかを明確に示しています。
公正証書がもたらす3つの法的優位性 執行力の根拠と手続きの簡略化
公正証書を作成することによって、私文書の契約書では得られない、次の3つの重要な法的優位性を得ることができます。これらの優位性が、将来の紛争予防と、万が一の際の権利実現を可能にします。
1 執行力の付与(強制執行の実現)
公正証書作成の最大のメリットは、契約書に「執行力」を持たせることができる点です。金銭の支払いに関する契約において、債務者(お金を払う側)が「直ちに強制執行に服する」という文言(執行受諾文言)を盛り込んで公正証書を作成すれば、その公正証書は裁判所の確定判決と同じ「債務名義」としての効力を持つことになります。
債務名義(さいむめいぎ)とは、強制執行を可能にするための公的な文書であり、代表的なものに確定判決があります。通常、債権者(お金を受け取る側)は、訴訟によって勝訴判決を得なければ強制執行はできませんが、公正証書に執行受諾文言を含めることで、この訴訟の手続きを完全に省略できるのです。債務不履行が生じた場合、裁判手続きを経ることなく、迅速に相手方の財産を差し押さえる(強制執行を行う)ことが可能になります。
2 高い証明力と証拠力
公正証書は、公証人(こうしょうにん)という、裁判官や検察官、弁護士などの法律実務に長年携わった人物の中から、法務大臣が任命する法律の専門家が、厳格な手続きに基づいて作成する公文書です。公証人は、契約の当事者の本人確認を行い、契約内容が当事者の真の意思に基づいているかを確認し、法律的に不備がないかを審査した上で、公正証書を作成します。
このため、公正証書は私文書と比べて極めて高い証明力と証拠力を持つことになります。私文書の場合、相手方から「この契約書は偽造だ」「署名はしたが、内容を十分に理解していなかった」などと争われるリスクがありますが、公正証書はそのような争いの余地を大幅に減らし、「契約が存在し、その内容が真実であること」を強力に証明することができます。
3 原本の長期的な保存
公正証書の原本は、公証役場において原則として20年間(遺言公正証書の場合は終身)にわたり厳重に保管されます。これにより、契約当事者の手元にある契約書を紛失したり、火災などで焼失してしまったりした場合でも、公証役場に請求すればいつでも謄本(写し)の交付を受けることが可能です。
私文書の場合、契約書原本を紛失してしまうと、合意内容を証明する手段が極めて乏しくなり、法的な権利行使が困難になるリスクがありますが、公正証書であれば、この紛失リスクから完全に解放され、契約内容の永続的な証明が可能になります。
民事執行法第22条が定める執行証書としての公正証書の効力
公正証書が、裁判所の確定判決と同じ執行力を持つ根拠は、法律に明確に定められています。それは、強制執行の手続きを定める法律である民事執行法の中に規定されています。
この条文の七号に、「公証人が作成した公正証書」が「執行証書」として債務名義の一つとして明確に列挙されています。これは、公正証書に「金銭の支払い」などの特定の請求について、債務者が強制執行を受けることを承諾するという文言(執行受諾文言)が記載されていれば、それは確定判決と同じ強力な法的効力を持つことを意味しています。
つまり、公正証書が単なる証明文書ではなく、「相手が支払わなければ、裁判なしに強制的に回収できる権利」を債権者に付与する、極めて実効性の高い公文書であることの法的根拠が、この民事執行法第22条第7号にあるのです。この規定があるからこそ、特に借金や養育費の支払いなど、将来の金銭の回収が懸念される契約については、公正証書化が最も有効なリスク対策となるのです。
将来の安心への投資 手間や費用を惜しまない公正証書作成の重要性
公正証書の作成には、公証役場の手数料や、専門家への報酬などの費用がかかりますし、公証役場に出向くという手間も発生します。しかし、これらの費用や手間を、単なる支出ではなく、「将来の紛争リスクを回避するための確実な保険料」あるいは「金銭回収の迅速化を保証する投資」として捉えることが極めて重要です。
私文書の契約書で金銭の回収が滞り、訴訟に発展した場合、回収にかかる弁護士費用や裁判費用、そして何よりも回収が遅れることによる精神的な負担と機会損失は、公正証書作成にかかる費用を遥かに上回る可能性が高いのです。
契約書を作成する際には、それが万が一の事態になった時に、あなたの権利をどれだけ迅速かつ確実に守ってくれるのかという「実効性」の観点から、その書面を評価すべきです。そして、金銭の支払いに関する約束事においては、執行力という強力な法的武器を持つ公正証書を作成することが、将来の安心を確保するための最も確実な方法であると言えます。手間や費用を惜しまず、客観的な視点と専門的な知識を持つ第三者の助言を得て、完璧な書面を作成することが、結果として最も安上がりで賢明な選択となるのです。
公正証書作成まで一貫してサポート 煩雑な手続きは経験豊富な専門家へ
公正証書を作成するためには、公証人との事前の打ち合わせ、契約書の原案作成、必要書類の収集、そして公証役場での手続きなど、多くのステップと法律的な知識が必要とされます。特に、執行受諾文言を有効にするためには、契約書の文言に法的要件を満たす不備がないことが求められます。
私たち行政書士は、公正証書を作成しようとするお客様に対し、その契約の背景や目的を深く理解した上で、最もお客様の利益を守るための契約書原案を作成いたします。また、煩雑な公証役場との連絡調整や、手続きに必要な書類の収集サポート、そして公証役場での公正証書作成の立ち会いなど、一貫したサポートを提供いたします。
公正証書の作成を専門家に依頼することで、お客様は法律的な不備や手続きの煩雑さから解放され、安心して重要な契約を締結することができます。金銭の回収リスクを最小限に抑え、法的安心感を手に入れるために、ぜひ私たち行政書士の専門知識をご活用ください。
公正証書に関するご相談や、契約書作成に関するご質問がございましたら、お気軽にお問い合わせください。お問い合わせは、専用のお問い合わせフォームの他、LINEからも24時間受け付けております。ご相談内容を確認後、迅速に、専門家としての経験に基づいた適切なアドバイスをもって返信させていただきます。お客様の権利と安心を守るお手伝いをさせていただけることを心より願っております。




