契約書の電子保存とデータ管理 電子帳簿保存法に対応する実務解説

はじめに

企業のデジタル化が急速に進む現代において、契約書や重要書類の取り扱いも大きな転換期を迎えています。紙の契約書を保管するための物理的なスペースの確保や、必要な書類を探し出す手間、印紙代の負担など、従来の管理方法には多くの非効率な点がありました。こうした背景から、契約書を電子データとして作成し、または紙の書類を電子化して保存する流れが主流となりつつあります。

しかし、単にスキャンしてパソコンに保存すれば良いというわけではありません。法律、特に電子帳簿保存法という法律の要件を満たし、証拠能力を保った状態で適切に管理する必要があります。この記事では、契約書の電子保存を進める上で欠かせない電子帳簿保存法の具体的な対応方法と、実務上の注意点について、専門家の視点から詳しく解説します。

この記事でわかること

この記事をお読みいただくことで、契約書の電子保存を取り巻く法的な枠組みと、それを実践するための実務的な知識を得ることができます。

具体的には、
・電子帳簿保存法が契約書の電子化にどのように関わってくるのか
・電子化する際に必ず満たすべき「真実性の確保」「可視性の確保」という二大要件とは何か
・電子契約で締結したデータと、紙の契約書をスキャンして保存するデータとで、それぞれどのような点に留意すべきか
が明確になります。

法律用語が多少わかる方を主な読者として、一歩踏み込んだ解説を提供します。

契約書の電子保存に関する具体的な企業事例

これはあくまで架空の事例ですが、多くの中小企業が直面する課題を反映しています。

製造業を営むA社では、取引先との契約書や発注書、請求書などの書類が年々増加し、倉庫の一部を占領するほどの量になっていました。経理部長のBさんは、管理コストの削減と業務効率化のため、これらの書類を全て電子データとして保存するプロジェクトを立ち上げました。

まずは手始めに、過去5年分の重要契約書を全て高解像度スキャナーで読み込み、社内サーバーのフォルダにPDFファイルとして保存しました。ファイル名には取引先名と契約日付を付けて、一見すると整理されているように見えました。

ところが、ある日、税務調査が入ることになりました。調査官から特定の取引に関する契約書の提出を求められた際、Bさんはすぐに該当のPDFを探し出すことができましたが、調査官からそのデータが電子帳簿保存法に則って保存されているか、具体的には改ざん防止の措置が講じられているか、また、検索要件を満たしているかといった質問を受けました。

A社はスキャンしただけで、タイムスタンプの付与や訂正・削除履歴の確保といった措置を全く講じていませんでした。さらに、ファイル名に日付と取引先名を入れただけでは、日付や金額、取引先といった主要な項目で網羅的に検索することができない状態でした。

調査官からは、このままでは電子保存が認められず、紙の契約書としての保存要件も満たしていない可能性があるとして、厳しく指摘を受けることになりました。電子化は進めたものの、法律対応を怠ったために、かえって大きなリスクを抱えてしまった事例です。

電子帳簿保存法と契約書データ管理の3つの重要用語

契約書を電子データとして適法に保存・管理するためには、電子帳簿保存法(電帳法)の理解が不可欠です。契約書も「国税関係書類」に該当し、法律の規定に従って保存しなければ、税務上、その電子データが正式な書類として認められない可能性があります。

特に重要となるのが、「真実性の確保」「可視性の確保」という二つの大原則と、「電子契約」と「スキャナ保存」の違いを理解することです。

真実性の確保

真実性の確保とは、保存されている電子データが、作成または受領した時点の契約書の内容と同一であり、その後に不正な改ざんがされていないことを証明できるようにするための要件です。

代表的な対応策として、タイムスタンプの付与があります。タイムスタンプとは、その時刻にその電子データが存在していたこと、そしてそれ以降改ざんされていないことを証明する技術です。

また、データの訂正や削除を行った場合に、その履歴が残るシステムを利用することも真実性を確保するための方法として認められています。A社の事例では、この「真実性の確保」のための措置を怠ったことが問題となりました。

可視性の確保

可視性の確保とは、保存された電子データを、必要な時に速やかに確認できる状態にしておくための要件です。

具体的には、
・一般的なOSやソフトウェアで表示できること
・ディスプレイやプリンターに出力できること
・日付・相手先・金額など主要な記録項目で検索できること
が求められます。

A社の事例で、ファイル名による検索しかできなかった点は、この可視性の確保、特に検索要件を満たしていなかったことになります。法律の要件を満たすためには、検索項目を網羅的に設定できるシステムの導入や、厳格なファイル名のルール設定が不可欠です。

電子帳簿保存法の条文と解説

契約書の電子保存に関する根拠法となる電子帳簿保存法から、特に重要な条文の一つをご紹介します。

電子帳簿保存法 第七条
「国税関係書類をスキャナで読み取った電磁的記録の保存をもって、当該国税関係書類の保存に代えることができる。この場合において、当該電磁的記録の保存は、財務省令で定めるところにより、その真実性及び可視性を確保するために必要な措置を講じて行うものとする。」

この条文は、紙で受領した契約書などの国税関係書類をスキャンして電子データとして保存する「スキャナ保存」を認める根拠です。

ただし、「真実性及び可視性を確保するために必要な措置を講じて行うものとする」と明記されており、単にスキャンしただけでは法律上の要件を満たさないことが示されています。

行政書士としては、この「財務省令で定めるところ」である施行規則に定められた具体的な要件(タイムスタンプの付与、検索機能の確保、適正事務処理要件など)を企業が遵守できるよう、体制整備をサポートすることが重要な業務となります。

電子契約とスキャナ保存の違い

契約書の電子保存には、大きく分けて次の二つのパターンがあります。

・最初から電子契約サービスなどを利用して、電子データとして作成・締結された契約書(電子契約)
・紙で受領または作成した契約書をスキャナで読み取り、電子データとして保存するもの(スキャナ保存)

電子契約で作成されたデータは、作成時点から電子データであるため、電子署名やタイムスタンプが付与されていれば、比較的容易に真実性が担保されます。

一方、スキャナ保存の場合は、紙の原本を電子化する過程で改ざんのリスクが発生するため、より厳格な要件が課せられています。例えば、
・一定期間内の入力
・業務フローを定めた規程の整備
・定期的なチェック体制の構築
などが求められます。

契約書を電子保存する際には、まずその契約書がどちらのパターンに該当するのかを明確にすることが、適切な法令対応の第一歩となります。

まとめ 書類は手間や費用を惜しまず、専門家に客観的な視点で助言をもらうこと

契約書の電子保存は、業務効率化やコスト削減の面で大きなメリットをもたらしますが、法令遵守という観点からは細心の注意が必要です。

単に「データとして保存する」だけでなく、電子帳簿保存法の要求する「真実性の確保」「可視性の確保」という二つの要件を確実に満たす体制を構築しなければ、税務調査で否認されるリスクや、最悪の場合、契約書の証拠能力自体が疑われる事態を招きかねません。

法令対応のためのシステム選定や運用ルールの策定には費用や手間がかかりますが、将来的な法的リスクを回避するための「保険」と捉えるべきです。

また、自社の業務を熟知している担当者だけでは、法律が要求する客観的な視点や第三者的な検証の視点が抜け落ちてしまう可能性があります。契約書の管理体制は企業の信用と直結する重要な問題です。

手間や費用を惜しまず、電子帳簿保存法や契約実務に精通した専門家(行政書士など)に助言を求め、適法かつ安全な電子保存体制を構築されることを強く推奨いたします。

法令対応とリスク管理はお任せください

契約書を電子化する際、行政書士は単なる書類作成代行者ではなく、
・電子保存に関する規程の作成支援
・適正な業務フローの構築
・電子化された契約書が法的に有効性を保つためのアドバイス
を提供することができます。

電子帳簿保存法の要件を満たしつつ、実務に即した効率的な契約書管理システムを構築することは、専門的な知識と経験が必要です。

現在お使いのシステムが電帳法に対応しているか不安がある、これから電子化を始めたいが何から手を付けていいかわからないといったお悩みをお持ちでしたら、ぜひ行政書士にご相談ください。

お電話、またはお問い合わせフォームからお気軽にご連絡いただけます。特に、LINEでのご相談は、移動中やちょっとした空き時間でも手軽にご利用いただけ、返信も迅速に行うよう心がけております。

電子化の波をリスクではなく、企業成長の機会とするために、私ども専門家をぜひご活用ください。お読みいただき、誠にありがとうございました。