個人間でお金を貸す際の契約書 リスクを防ぐ公正証書の効力

はじめに
この度は、個人間の金銭貸借に関するこの記事にお目を留めていただき、誠にありがとうございます。

私は、お客様が安心して金銭取引を行えるよう、法的根拠に基づいた契約書の作成、特にその契約内容を強力に担保する公正証書作成を専門とする行政書士です。

お金の貸し借りは、それが友人や親戚、知人といった親しい間柄で行われる場合であっても、非常にデリケートな問題です。信頼しているからこそ「契約書なんて不要だ」と考えがちですが、人間関係が良好なうちは問題ありませんが、ひとたび返済が滞ると、信頼関係が一気に崩壊し、金銭的な損失だけでなく、大切な人間関係まで失ってしまうことになりかねません。

「情けは人のためならず」という言葉がありますが、お金を貸す際に契約書を作成することは、相手に対する不信感を示すものではなく、むしろ双方の信頼関係を将来にわたって守るための最良の手段であり、社会的なルールに基づいた誠実な行為であると言えます。

本記事では、個人間での金銭貸借を安全かつ円滑に行うために、必ず作成すべき金銭消費貸借契約書の法的意義と、特に貸し倒れリスクを極限まで低減させる公正証書の持つ強力な効力について、法律の用語が多少わかる方を対象に、専門的な視点から詳しく解説いたします。

親しい間柄で金銭貸借をする際の法的知識
本記事を最後までお読みいただくことで、親しい間柄での金銭消費貸借において、特に紛争の原因となりやすい以下の主要な論点について、深く理解することができます。

第一に、口約束ではなく、書面である金銭消費貸借契約書(または借用書)を作成することが、なぜ法的な証拠力として極めて重要であるのかを学びます。また、単なる書面で終わらせず、その内容を公正証書として残すことが、債権回収においてどれほど強力な武器になるかを知ることができます。

第二に、金銭貸借における利息の定め方や遅延損害金の考え方について、民法の基本原則と、利息制限法といった特別法による規制を理解し、法外な金利を設定するリスクと、適正な金利設定の重要性を把握できます。

第三に、返済が滞った場合の法的対応、特に債権者が貸したお金を確実に回収するための手段として、強制執行受諾文言付きの公正証書が果たす決定的な役割と、その具体的な作成手続きについて理解を深めていただけます。

そして最後に、これらの法的知識を踏まえた上で、友人や知人からの依頼だからこそ、感情論に流されず、専門家による客観的かつ中立的な書面作成の助言を得ることが、どれほど将来の安心につながるかをご理解いただけます。

架空の事例 契約書がないために起きた友人間の金銭トラブル
これはあくまで架空の事例ですが、契約書や法的書面がないために親しい人間関係が崩壊した、実際に起こり得るトラブルの一例としてご認識ください。

長年の友人であるAさんは、事業の運転資金が急に必要になったBさんから、「必ず一年で返すから」と頼まれ、善意で300万円を無担保で貸すことにしました。AさんとBさんの間では、契約書や借用書といった書面は作成されず、口頭で「一年後に一括で返す」という約束が交わされただけでした。AさんはBさんのことを信頼していたため、特に記録を残すことを求めませんでした。

約束の返済期限である一年後、Bさんからの連絡は途絶えがちになり、300万円は一円も返済されませんでした。Aさんが催促をすると、Bさんは「事業がうまくいかず、今は手元にお金がない」と謝罪しましたが、「いつまでに返すか」という具体的な返済計画については、あいまいな返答を繰り返すばかりでした。

事態を重く見たAさんは、ついに法的な手段に訴えることを決意し、弁護士に相談しました。しかし、Aさんの手元にあるのは、Bさんとの短いメッセージのやり取り履歴だけであり、「300万円を貸した」という事実を証明する金銭消費貸借契約の成立を示す確固たる証拠がありませんでした。

Bさんは裁判の場で、「300万円はAさんからの出資、または贈与であり、返す義務はない」と主張を変えてきました。証拠が不足していたため、裁判は長期化し、Aさんは貸したお金を取り戻すことに多大な時間と精神的ストレス、そして高額な弁護士費用を費やすことになりました。

結局、Aさんは裁判で勝訴したものの、Bさんには他に財産がなく、回収は困難を極めました。この事例からわかる通り、口約束は契約とは認められにくいだけでなく、証拠がないために、お金を貸した側が自身の権利を証明するのに苦労するという深刻な問題を引き起こすのです。

貸し倒れを未然に防ぐ金銭貸借契約書の三つの必須条件
個人間での金銭貸借を法的に安定させるために、金銭消費貸借契約書に必ず盛り込むべき三つの必須条件について解説いたします。

1 金銭消費貸借契約の法的成立と書面化の重要性
金銭消費貸借契約は、当事者の一方がある金銭を相手方に交付し、相手方がこれを返還することを約することによって効力を生じます(民法第587条)。

民法第587条は、「当事者の一方がある物を相手方に交付し、相手方がこれを返還することを約することによって、その効力を生ずる。」と定めています。金銭の場合、これは金銭の交付をもって契約が成立することを意味します。

しかし、口頭での合意だけでは、上記の事例のように「いつ」「いくら」「どのように」返すという具体的な合意内容や、そもそも「貸した」という事実自体を、後から証明することが非常に困難になります。したがって、単に金銭を交付するだけでなく、必ず契約書という形で返済に関する全ての条件を書面に残し、当事者双方が署名捺印することが、紛争予防と証拠保全の観点から絶対に必要です。

2 利息と遅延損害金の適正な設定
契約書には、貸した元本(金額)だけでなく、利息と遅延損害金についても明確に定める必要があります。

利息については、利息制限法という法律があり、元本の額に応じて上限が定められています。例えば、元本が100万円未満の場合は年20パーセント、100万円以上の場合は年15パーセントが上限です。これを超える利息を定めた場合、その超える部分は無効となります。

また、遅延損害金とは、返済期日を過ぎた場合に支払われる罰則的な金銭であり、これも利息と同様に利息制限法の上限(上記の各上限利率の1.46倍まで)が適用されます。契約書でこれらの上限を意識した適正な金利を定めることで、法的な有効性を保ちつつ、借りる側にも返済を促す適切なプレッシャーを与えることができます。

3 強制執行受諾文言付き公正証書という最強の法的担保
金銭消費貸借契約において、貸し倒れリスクを最小限に抑え、債権回収の確実性を極限まで高める方法は、契約書を強制執行受諾文言付きの公正証書にすることです。

公正証書は、公証役場で公証人という公務員が作成する公文書であり、極めて高い証明力(証拠力)を持ちます。さらに、契約書に「債務者がこの証書に記載された金銭債務の履行を怠ったときは、直ちに強制執行に服する」という趣旨の強制執行受諾文言を盛り込むことで、裁判所の確定判決を経ることなく、直ちに債務者の財産(給与、預金など)を差し押さえることが可能となります。

これは、通常の借用書や契約書とは比較にならない、債権者にとって最も強力な法的武器となります。特に、親しい間柄だからこそ、万が一の事態に備え、後のトラブルで人間関係が完全に破綻するのを防ぐためにも、公正証書化が推奨されます。

裁判なしで強制執行を可能にする条項の文例
強制執行受諾文言付きの公正証書を作成する際、契約書に盛り込むことになる条項の文例を以下に示します。これはあくまで公正証書作成手続きの一部であり、公証人が最終的な文言を確定します。

強制執行受諾に関する条項文例

債務者は、本契約に基づく金銭消費貸借契約による元本金〇〇円、利息、及び遅延損害金の支払いを怠ったときは、債権者に対して、この公正証書により直ちに強制執行に服することを承諾する。

この文言を契約書に含め、公証役場で公正証書とすることで、裁判という時間のかかる手続きを省略し、債務名義(強制執行を行うために必要な文書)を直ちに得ることができます。

大切な人間関係とお金を両立させるための結論と助言
個人間の金銭貸借は、信頼という最も曖牲になりやすい土台の上で行われる取引です。大切な友人や家族との関係を長く維持しながら、かつ貸したお金を確実に返済してもらうためには、感情論を排し、法的なルールに基づいた明確な書面を作成することが何よりも重要です。

契約書を作成する手間や、公正証書作成にかかる費用を惜しむことは、後の回収トラブルで発生する弁護士費用、裁判費用、そして失われた人間関係という計り知れない損失と比較すれば、あまりにも小さな出費です。

書面作成の専門家に行政書士にご相談いただくことで、当事者間の客観的な視点から、法的に有効かつ返済を強力に担保する契約書を作成することが可能となります。また、借りる側にとっても、不当に高すぎる金利や不利な条件になっていないか、法的なチェックを受けることができるため、双方にとって公平で安心できる契約を締結することができます。

確実な返済を可能にする契約書作成を行政書士にご依頼ください
本記事をお読みになり、ご家族やご友人との金銭貸借契約について、不安を覚えたり、法的に確実な手段を講じたいとお考えになった方は、ぜひ一度、行政書士にご相談ください。

私は、お客様の個別の事情や、貸す側・借りる側の状況を丁寧にヒアリングし、利息制限法などの関連法規を遵守した、オーダーメイドの金銭消費貸借契約書を作成いたします。

特に、契約書作成のゴールとして、強制執行受諾文言付きの公正証書の作成をサポートさせていただくことで、万が一の返済遅延時にも、お客様が安心して債権回収を行えるよう、法的に最も強力な体制を整えます。公正証書作成は、複雑な手続きを要しますが、当職が公証役場との調整を含め、手続きを全面的にサポートいたします。

ご相談は、お問い合わせフォーム、または公式ラインアカウントから承っております。金銭トラブルは緊急を要することが多いため、迅速に、そして親身になって対応することを常に心がけております。大切な人との関係を法的に守りながら、金銭的な安心も手に入れるために、ぜひお気軽にご連絡ください。最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。