事実婚の法的な安定化 合意契約書と公正証書で築く安心の共同生活

ごあいさつ
近年、お互いの価値観やライフスタイルを尊重し、法律上の婚姻届を提出しない「事実婚」、あるいは「内縁関係」を選択されるカップルが増えています。入籍という形式にとらわれず、深い愛情と信頼に基づいて共同生活を送るこのスタイルは、現代の多様な生き方を象徴するものと言えるでしょう。

しかし、法律上の婚姻関係にある夫婦と異なり、事実婚の関係は法的に不安定な部分を抱えています。特に、共同生活を解消する際(法的な離婚に相当)や、どちらか一方が亡くなった際、財産分与や相続といった非常に重要な権利義務に関して、法律上の保護が及ばない、あるいは十分でないケースが存在します。

安心して共同生活を継続し、万が一の事態にも備えるためには、お二人の間で事実婚合意契約書を作成し、権利と義務を明確にしておくことが不可欠です。この記事では、事実婚関係を法的に安定させる合意契約書の重要性、その法的根拠、そしてさらに強力な公正証書として作成するメリットについて、法律の知識がある読者の方に向けて詳しく解説していきます。

法的保護の限界と合意契約書による法的権利の明確化
事実婚という関係は、法律上の婚姻関係と同様に、貞操義務や同居協力扶助義務など、夫婦としての実質的な義務を負っていると解釈されることが多く、判例上も一定の保護を受けています。例えば、共同生活の解消時における財産分与請求権や、婚姻費用(生活費)の分担については、法律婚に準じた扱いを受けることが可能です。

しかし、法律婚と比較した際の決定的な法的保護の限界が存在します。最も大きな違いは、相続権がないことです。事実婚のパートナーは、法的な夫婦ではないため、原則として、遺言がない限り、相手の財産を相続することができません。また、税法上の配偶者控除の適用がない、子の親権が母親のみとなる(別途、認知が必要)など、法律婚では当然に得られる権利が事実婚では得られないという現実があります。

この法的保護の限界を補い、お二人の意思を尊重した安定した関係を築くための「法的インフラ」となるのが、事実婚合意契約書です。合意契約書には、日々の生活費の分担方法から、共同財産や個有財産の区分、そして万が一関係を解消する際の財産分与の方法や金額、慰謝料の取り決めまで、お二人の合意事項を明確に定めることができます。これにより、法的な争いを未然に防ぎ、互いの権利を保障することが可能となるのです。

合意書がないために共同生活解消時に不当な扱いを受けた架空の事例
これは、長年事実婚関係にあったものの、合意契約書を作成しなかったために、共同生活解消時に不当な扱いを受けることになった架空の事例です。

Xさん(女性)とYさん(男性)は、十年間にわたり事実婚関係にあり、生活費はYさんが多く負担し、Xさんは家事やYさんの事業の手伝いに従事していました。二人は、共同生活中に一軒の不動産を共同名義で購入していましたが、購入資金の大部分はYさんの貯蓄から拠出されていました。特に、二人の間で**「生活費の負担割合」や「解消時の財産分与」**について、書面による合意は一切ありませんでした。

ある日、二人の関係が破綻し、共同生活を解消することになりました。その際、不動産の財産分与について大きな争いが生じました。Xさんは、十年間の家事労働や内助の功を主張し、二人が築いた財産の半分を請求しましたが、Yさんは「生活費のほとんどは私が負担してきた。Xさんの寄与は微々たるものだ」と主張し、Xさんの請求を拒否しました。

この争いの中で、Xさんは自身が負担してきた家事労働の価値や、生活費をYさんが主に負担してきたことによるXさんの固有財産の増加分を立証しなければなりませんでしたが、客観的な証拠、特に生活費の分担方法を定めた合意契約書がないため、その立証は非常に困難を極めました。結果として、Xさんの財産分与額は、その十年間の献身的な共同生活に見合ったものとは言えず、非常に不公平な形で関係を清算せざるを得なくなってしまいました。

この事例からもわかるように、口頭での「大丈夫」という約束や、慣習的な分担では、関係が破綻した際に、それが法的な根拠となってお互いを守ることはできません。合意契約書という形で、お二人の間の約束事を明確に文書化しておくことの重要性が改めて浮き彫りになります。

事実婚関係の法的保護と解消時に生じる権利義務の基礎知識
事実婚合意契約書を作成するにあたり、その法的根拠となる民法上の「夫婦」の規定が、内縁関係にどの程度準用されるかを理解することが不可欠です。これは、契約書を作成する上での土台となる知識です。

まず、事実婚関係の成立要件です。これは、単に同居しているだけでは認められず、「婚姻意思の合致」と「夫婦共同生活の実体」の二つが客観的に認められる必要があります。この「実体」が認められれば、判例上、法律婚の夫婦に関する規定が準用されることが多くなります。

次に、同居協力扶助義務です。これは民法第七百五十二条に定められている規定です。

民法第七百五十二条

夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

この条文の解説ですが、法律上の夫婦には、共に生活し、お互いに助け合って生活する義務があることが定められています。判例上、事実婚関係においてもこの義務が準用され、生活費(婚姻費用)の分担義務が生じます。合意契約書では、この扶助義務を具体的な金銭の負担割合や方法として明確に定めることができます。例えば、「毎月の生活費は、甲が収入の六割、乙が収入の四割を負担する」といった具体的な定めを置くことで、日々の生活における無用な金銭トラブルを防ぐことが可能となります。

さらに、共同生活解消時に生じる重要な権利義務として、財産分与請求権と慰謝料請求権があります。

財産分与請求権は、法律婚と同様に、事実婚の関係解消時にも認められる権利であり、共同生活中に築いた財産(共同財産)を清算するものです。合意契約書では、どの財産が共同財産にあたり、どの財産が個有財産(結婚前から持っていた財産や相続によって得た財産など、分与の対象外となる財産)にあたるのかを明確に定めておくことが、紛争予防の鍵となります。また、清算の割合についても、事前に合意しておくことが望ましいです。

慰謝料請求権は、共同生活中に一方の不貞行為や暴力などの不法行為があった場合に、精神的苦痛に対して請求できる権利です。合意契約書に、慰謝料の金額や支払い条件について明確な規定を設けておくことで、将来的な訴訟リスクを減らし、迅速な解決を図ることが可能となります。

これらの権利義務を、お二人の意思に基づき、かつ法的な枠組みに則って明確に定めるためには、専門的な知識に基づく契約書作成が不可欠です。

事実婚合意契約書の具体的規定例
事実婚合意契約書には、日々の生活の取り決めから、万が一の関係解消時の精算まで、幅広い内容を盛り込むことができます。これもあくまで一例であり、個別の事情に応じた専門家の検討が必要です。

契約書作成例

事実婚合意契約書

甲(氏名)と乙(氏名)は、婚姻の届出をしない事実婚関係にあること、及び以下の事項について合意したことを証するため、本契約を締結する。

第三条(生活費の分担) 甲及び乙は、共同生活に要する費用(以下「生活費」という)について、それぞれの収入、資産、その他一切の事情を考慮し、甲が毎月総額の七割を、乙が総額の三割を負担するものとする。

第六条(関係解消時の財産分与) 本契約に基づく事実婚関係が解消された場合、甲及び乙は、共同生活中に共同して取得した財産について、乙が甲に対し、金〇〇円の財産分与を行うものとする。この財産分与には、共同生活中の家事労働等に起因する清算的な意味合いを含むものとする。

第七条(公正証書作成の合意) 甲及び乙は、本契約の成立を確実なものとし、特に金銭債務に関する部分(第六条の財産分与金など)について、将来の執行を可能とするため、本契約について公正証書を作成することに合意する。

特に、契約書の後半部分に記載されている第七条(公正証書作成の合意)は、非常に重要です。公正証書として作成することで、特に金銭の支払いを目的とした条項、例えば財産分与金や慰謝料の支払い義務について、執行受諾文言を盛り込むことができます。これにより、万が一、相手方が支払いを怠った場合でも、裁判所の判決を経ることなく、強制執行が可能となり、債権回収の確実性が格段に高まります。事実婚の解消時において、金銭的な不安を解消し、迅速かつ確実に権利を確保する上で、公正証書の活用は極めて有効な手段です。

将来の不安を取り除くために 専門家の助言による客観的な合意形成の重要性
事実婚合意契約書は、単なる共同生活のルールブックではありません。それは、お互いの人生に対する法的なコミットメントであり、将来のリスクからお二人を守るセーフティネットです。

当事者同士で契約書を作成すると、どうしても感情的な側面や、現在の関係性に都合の良い解釈が先行しがちです。しかし、契約書が最も効力を発揮しなければならないのは、関係が悪化し、話し合いでの解決が困難になった時です。

書類作成の専門家である行政書士に依頼することは、冷静かつ客観的な第三者の視点を取り入れることを意味します。お客様のお二人の関係性や財産状況を正確に把握し、将来起こりうる**不測の事態(病気、死亡、関係解消など)**を予測した上で、法的な抜け穴がない、万全の契約書を作成いたします。手間や費用を惜しまずに、専門家の知識と経験に基づく助言を得て、法的安定性を確保することが、安心して共同生活を継続するための最も賢明な選択と言えるでしょう。

大切な共同生活を法的に守るための安心のサポート
お二人の大切な共同生活を、法的な不安から解放し、確かな基盤の上に築くために、当事務所がお手伝いいたします。

事実婚合意契約書の作成・内容の検討、そして特に重要な公正証書としての作成手続きまで、一貫してサポートいたします。お客様のライフスタイルや将来設計に合わせた、オーダーメイドの契約内容をご提案し、公証役場との連携もスムーズに行いますのでご安心ください。

ご相談は、お問い合わせフォーム、または公式ラインからお気軽にご連絡いただけます。人生の重要な決断を伴うご相談ですので、迅速な返信と、お客様のプライバシーを厳守した丁寧な対応を心がけております。お二人の安心と幸せな未来のために、専門家として全力でサポートさせていただきます。