離婚後の安心を確実にする財産分与の合意書と公正証書作成のステップ
Contents
1 はじめに
この度は、当ブログにお越しいただき、誠にありがとうございます。
ご夫婦が人生の大きな節目である離婚を迎えられる際、最も重要で、かつトラブルになりやすいのが、夫婦が協力して築き上げた財産を清算する
「財産分与」
の問題です。感情的な対立がある中で、金銭や不動産といった具体的な財産の分け方を話し合い、それを確実に実行するための法的文書を作成することは、当事者にとって大きな負担となります。
しかし、財産分与の取り決めを曖昧なままにしておくと、離婚後に元配偶者からの支払いが滞ったり、約束を反故にされたりといった事態が発生し、新たな紛争に巻き込まれ、将来の生活基盤が揺らいでしまうことになりかねません。
財産分与に関する
「契約書」や「合意書」
は、単なるメモではなく、お互いの新たな生活のスタートを法的に支えるための、最も重要な土台です。そして、その合意をさらに強固にし、法的な強制力を持たせる
「公正証書」
にすることは、離婚後の安心を確実にするための重要なステップとなります。
私は、お客様の新たな人生の出発を、法的に安定した形でサポートすることを専門とする行政書士として、この
財産分与の合意書作成と公正証書化
について、その法的背景と、確実な手続きの進め方を、専門的な知識をもって詳しく解説いたします。
2 この記事を読むことで理解できること
本記事では、「夫婦間 財産分与 契約書」というキーワードに関心をお持ちで、法律用語に多少馴染みのある皆様へ向けて、次のようなポイントを丁寧に掘り下げてご説明します。
-
民法上の根拠と財産の範囲の考え方
財産分与の根拠となる民法の規定と、夫婦の共有財産と個人の
「特有財産」
を法的に区別する方法を整理し、
どの財産が分与の対象となるのかを明確にします。 -
私的な合意や口約束のままにした場合のリスク
架空事例を通じて、財産分与の取り決めを私的な合意書や口約束で済ませた結果、離婚後にどのような深刻な問題が生じるのか、その現実的なリスクを具体的にイメージしていただきます。 -
合意書に盛り込むべき具体的条項と公正証書のメリット
財産分与の合意書に必ず入れておきたい条項のポイントと、その合意を公証役場で
「公正証書」
にすることの決定的なメリット、とくに金銭支払いが滞った際に威力を発揮する
「強制執行認諾文言」
の重要性について、関連条文の解説も交えながらご説明します。
これらを通じて、財産分与の取り決めを行う際に、単なる話し合いやメモで終わらせるのではなく、
将来の生活を守るために「確実な法的手続き」を踏むことの重要性
を実感していただき、安心できる未来へ進んでいただくことを目的としています。
3 財産分与の取り決めを書面に残さなかったために生じたトラブル事例
ここでは、財産分与の取り決めを曖昧なままにしておいたために生じたトラブルの、架空の事例をご紹介します。
長年連れ添った夫婦であるCさんとDさんは、数年前に協議離婚に至りました。離婚の際、夫婦の共有財産である自宅不動産についてはCさんが引き続き住み続けることとし、その代償として、CさんがDさんに対し
合計500万円の解決金
を離婚後1年間で毎月分割で支払う、という口約束がされました。
この取り決めを記した簡単な
「覚書」
のようなものは作成されたものの、専門家を介さず、公証役場での手続きも行われていませんでした。
離婚後、最初の数ヶ月間はCさんからの支払いが滞りなく行われていましたが、半年ほど経過した頃から、Cさんの経営する事業が悪化し始め、分割金の支払いが完全にストップしてしまいました。
Dさんは何度もCさんに連絡を取りましたが、Cさんは
「支払う意思はあるが、今は資金がない」
という一点張りで、支払いは再開されません。
Dさんは、やむを得ずCさんの財産から強制的に回収する
「強制執行」
を検討しました。しかし、公証役場で作成された公正証書が存在しないため、裁判所に改めて訴訟を起こし、判決を得るという、非常に時間と費用のかかる手続きを経なければ、強制執行を行うことができませんでした。
結局Dさんは、弁護士費用などの新たな負担を抱え、長期にわたる裁判手続きに巻き込まれることになり、精神的にも金銭的にも大きな負担を強いられました。
当初の口約束や私的な覚書だけでは、相手が支払いを怠った場合に、それを速やかに実現するための
「法的強制力」
が全くなかったことが、このトラブルの根本原因です。
この事例が示すように、離婚という新たな人生のスタートを切るにあたって、財産分与の取り決めを
相手の誠意だけに頼ること
は、あまりにもリスクが大きいと言えます。とくに金銭の支払いが絡む取り決めは、必ず法的に確実な形で文書化し、その実行を担保するための法的手段をあらかじめ確保しておくことが、ご自身の将来の生活を守るうえで欠かせません。
4 財産分与の合意書作成に必要な法律知識と専門用語
財産分与の合意書を作成し、それを公正証書化する過程では、その法的性質を正確に理解しておくことが、ご自身の権利を守るうえで非常に重要です。ここでは、とくに押さえておきたい3つの用語と関連する民法の規定をご紹介します。
4−1 財産分与請求権(ざいさんぶんよせいきゅうけん)
離婚の際に財産分与を求める権利は、民法第768条に定められています。
民法第七百六十八条第一項 「協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。」
この条文は、協議離婚に際して、一方の配偶者が他方に対し財産分与を請求できる法的根拠を示すものです。
財産分与は、婚姻期間中に夫婦の協力によって築かれた共有財産を、それぞれの貢献度に応じて公平に分配する
「清算的要素」
が基本となりますが、場合によっては離婚後の生活扶助や慰謝料的な要素を含むこともあります。
また、この財産分与請求権は、
離婚が成立してから2年を経過すると時効によって消滅
します。そのため、取り決めはできるだけ速やかに行い、その内容を確実に文書化しておくことが重要です。
4−2 特有財産(とくゆうざいさん)
財産分与の対象となるのは、婚姻中に夫婦の協力によって形成された
「共有財産」
に限られます。これに対して、夫婦の一方が婚姻前から有していた財産や、婚姻中であっても相続や贈与によって得た財産は、
「特有財産」
として分与の対象から除外されます。
民法第七百六十二条第一項 「夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、 その特有財産とする。」
例えば、夫が独身時代に貯めていた預貯金や、妻が実家から相続した不動産などは特有財産にあたります。
財産分与の合意書を作成する際には、まず夫婦が有している全ての財産について、
- 共有財産なのか
- 特有財産なのか
を整理・区別し、分与の対象となる財産の範囲を具体的に特定することが、公平な分与と将来の紛争予防に直結します。
4−3 強制執行認諾文言(きょうせいしっこうにんのくもんごん)
強制執行認諾文言
は、公正証書特有の、非常に強力な法的機能を持たせるための文言です。
この文言を付した公正証書を作成しておくことで、元配偶者からの金銭支払いが滞った場合でも、裁判所での訴訟手続きを経ることなく、
直ちに強制執行(差押え等)
に進むことが可能になります。
内容としては、
「債務者(支払う側)が、本証書に記載された金銭の支払いを怠った場合には、直ちに強制執行に服することを承諾する」
という趣旨の文言を公証人が記載するものです。
この文言があるかどうかが、財産分与の取り決めを
- 単なる私的な約束で終わらせるのか
- 法的強制力を持つ公的な文書に昇格させるのか
という決定的な分かれ目となります。
5 財産分与の合意書に定めるべき重要事項の文例
上記のような法的な背景を踏まえ、財産分与の合意書では、とくに
- 財産の特定
- 金銭の支払い条件
- 公正証書化に関する取り決め
を、具体的に定めておく必要があります。以下に文例を示します。
5−1 解決金(代償金)の支払いに関する文例
(解決金の支払い) 甲(夫)は、乙(妻)に対し、本件離婚に伴う財産分与の解決金として、 金七百万円を支払う義務を負う。 甲は、このうち金三百万円を本合意書締結日から一か月以内に、 乙が指定する銀行口座に振り込む方法により支払う。 残りの金四百万円については、離婚後四年間にわたり、毎月五万円ずつを、 毎月月末日限り、乙の指定する銀行口座に振り込む方法により支払う。
5−2 不動産の分与に関する文例
(不動産の分与) 甲及び乙は、共有財産である下記不動産 (所在地、地番、家屋番号を正確に記載する。) について、乙に帰属させることで合意した。 甲は、乙に対し、本合意書締結後速やかに、 本件不動産の所有権移転登記に必要な一切の書類を交付するものとする。 本件不動産の所有権移転登記に要する費用は、乙の負担とする。
5−3 公正証書作成に関する文例
(公正証書の作成) 甲及び乙は、本合意の内容を明確にし、特に金銭の支払いに関する 債務の履行を確実なものとするため、本合意書の内容に基づき、 公証人役場において公正証書を作成するものとする。 当該公正証書には、甲が本件金銭債務の履行を怠ったときは、 直ちに強制執行に服する旨の強制執行認諾文言を付す。
このように、曖昧な表現を避け、
「いつ」「いくら」「何を」「どのように」
分与・支払いを行うのかを具体的に定めるとともに、将来の強制執行まで見据えた条項を置くことが、トラブル予防に直結します。
6 まとめ|合意書作成と公正証書化に手間や費用を惜しまない重要性
財産分与の合意書は、単に夫婦間の財産を分けるための文書ではなく、
離婚後の生活を再建し、安定させるための「法的保障」
です。
とくに金銭の支払いが絡む場合、その合意を私的な文書で終わらせず、公証役場において
「強制執行認諾文言付きの公正証書」
として作成することは、費用と手間をかける価値のある、非常に有効な選択肢と言えます。
公正証書化により、万が一元配偶者からの支払いが滞った場合でも、裁判手続きを省略し、
迅速かつ強制的に金銭を回収することが可能
になります。この法的強制力の有無によって、離婚後の安心感は大きく変わります。
ご自身の権利と将来の生活を守るため、そして、公的な文書として取り決めを確実なものにするためにも、合意書の作成と公正証書化については、手間や費用を惜しまず、財産分与の法的知識と実務に精通した専門家――行政書士のような客観的な視点を持つ専門家――の助言を求めることが、賢明な判断だと言えるでしょう。
7 財産分与の合意書作成から公正証書化までのサポートは行政書士へ
私ども行政書士は、法律の専門家として、皆様の財産分与の取り決めを、法的に有効かつ公平な
「合意書」
として文書化することを専門としています。
財産の範囲の特定、特有財産との切り分け、金銭や不動産の具体的な分与方法などについて、民法の規定に基づいて整理し、合意内容を分かりやすく、かつ実務的な形に落とし込んでいきます。
さらに、作成した合意書を基に、公証役場との間で公正証書作成手続きの調整を行い、
「強制執行認諾文言付きの公正証書」
として完成させるサポートも得意としております。公証役場との煩雑なやり取りや、専門的な文言の調整を専門家が代行することで、お客様は精神的な負担を軽減し、新たな生活の準備に集中していただけます。
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