秘密保持契約書 テンプレートの限界とNDAを専門家へ依頼するメリット
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1 はじめに
企業間の取引や新たなプロジェクトを進める際、秘密保持契約書、いわゆるNDA(Non-Disclosure Agreement)の締結は、今や欠かせないステップとなっています。アイデアや技術、顧客情報といった企業の重要な秘密情報を、情報開示の相手方に守ってもらうための非常に大切な約束事です。
インターネットで「秘密保持契約書 テンプレート」と検索されている方が多いのは、自社の事業を守るために、できるだけ迅速かつ適切に契約書を整えたいという危機意識の表れだと言えます。しかし、実際にテンプレートを利用して自力で作成してみると、本当にこの内容で自社の秘密を守り切れるのか、事業内容に合っているのか、不安を覚える場面も少なくありません。
本記事では、テンプレートを利用して秘密保持契約書を作成する際に陥りがちな落とし穴と、なぜ事業内容に合わせたオーダーメイドの契約書を専門家に依頼することが重要なのかについて、法的な観点からできるだけ分かりやすく解説します。秘密保持契約の位置付けを整理したうえで、実務で役立つ視点をお伝えしていきます。
2 この記事でわかること
この記事を最後までお読みいただくことで、秘密保持契約書をテンプレートだけに頼って作成することのリスクと、その見直しのポイントを体系的に理解していただけます。
まず、テンプレートをそのまま使った場合に起こりがちな問題点を整理し、どのような場面で特に注意が必要になるのかを確認します。自社の技術や顧客情報など、事業の根幹に関わる情報を扱う際に、どのような視点で契約内容を見直すべきかの基準が見えてきます。
次に、架空事例を通して、秘密情報の定義が曖昧であったために、大切な情報を守り切れなかったケースを具体的にたどります。実際にどこで問題が生じたのかを知ることで、自社の契約書のどこを確認すべきかがイメージしやすくなります。
さらに、秘密保持契約書において特に重要となる条項と、それに関わる三つの専門用語について、法律の条文も踏まえながら解説します。単に用語を覚えるのではなく、なぜその条項が必要なのか、事業にとってどのような意味を持つのかが分かるようになります。
最後に、費用や手間をかけてでも契約書作成を専門家に相談する意味と、今すぐできる見直しの一歩についてお伝えします。この記事を読み終える頃には、秘密保持契約書を「とりあえずの書類」ではなく、「事業を守るための重要なツール」として捉え直していただけるはずです。
3 テンプレートに頼って大切な情報を守れなかった架空事例
ここでは、テンプレートを用いて秘密保持契約書を作成したものの、結果的に大切な技術を守り切れなかった架空の事例をご紹介します。実在の企業や人物をモデルにしたものではなく、よくある問題点を凝縮したケースとして捉えていただければと思います。
地方でユニークな食品加工技術を持つ中小企業A社は、都内の大手飲食チェーンB社と共同で新商品の開発を行うことになりました。A社が開示する予定の情報は、商品の核となる特定の温度と時間で加熱する独自の加工プロセスに関するものであり、長年の研究により確立してきた重要なノウハウでした。
A社の社長は、インターネットで見つけた秘密保持契約書テンプレートをもとに契約書を作成し、B社と締結しました。そのテンプレートには、「秘密情報とは、書面または電磁的記録により開示され、開示時に秘密である旨が明記された情報をいう」といった一般的な定義が記載されていました。A社は、この文言で十分に秘密が守られるものと考えていました。
開発の打ち合わせが始まると、A社は試作段階の会議や工場見学の場で、口頭や実演を通じて加工プロセスの詳細をB社の担当者に何度も説明しました。しかし、契約書の定義を意識して、「これは秘密情報です」といった明示的な言葉をその都度伝えたり、口頭で説明した内容を後から書面で整理して通知したりすることは行っていませんでした。
その後、共同開発はさまざまな事情から頓挫し、プロジェクトは中断されました。ところがしばらくして、B社がA社の加工技術と酷似した商品を独自ブランドで販売し始めたことが発覚します。A社は秘密保持契約違反であるとしてB社に抗議しましたが、B社は「契約書の定義に当てはまる秘密情報は、ごく一部の書面に限られる。口頭や実演で説明を受けた内容で、秘密である旨が明示されていないものについては、契約上の秘密情報には該当しない」と主張しました。
A社としては、自社が長年培ってきた技術が事実上無断で利用されているとの強い思いがありましたが、裁判でこれを裏付ける証拠をそろえることは容易ではありませんでした。契約書上の秘密情報の定義が限定的であったことに加え、実際のやりとりの中でも「秘密であること」を形式的に確認していなかったために、秘密保持契約書そのものが十分な盾として機能しなかったのです。
この事例が示しているのは、テンプレートの文言をそのまま用いるだけでは、現場で行われる口頭説明や実演を十分にカバーできないことがある、という点です。秘密保持契約書は締結しただけで安心するものではなく、実際の情報開示の場面を想定しながら内容を調整しなければ、期待した働きをしてくれない可能性があることが分かります。
4 秘密保持契約書で押さえたい三つのポイントと用語解説
秘密保持契約書を実務で役立つ形にするためには、いくつかの重要な条項について、その法的意味と実務上の役割を理解しておく必要があります。ここでは、特に重要度の高い三つのポイントとして、秘密情報の定義、目的外利用の禁止、損害賠償の予定について解説します。
一つ目は「秘密情報の定義」です。これは、契約書の中でどの情報が保護の対象になるのかを決める、最も重要な条項の一つです。定義が曖昧であれば、「その情報はそもそも秘密情報に含まれていない」と主張されてしまうおそれがあります。実務では、秘密情報には秘密管理性と有用性が求められるとされていますが、特に重要なのは、どのような形で開示された情報が秘密として扱われるかを具体的に定めることです。書面やデータに限るのか、口頭や実演で開示した情報も含めるのか、口頭で開示した場合には後から書面で確認するのかなど、自社の取引の実情に合わせて、定義と手続を工夫する必要があります。
二つ目は「目的外利用の禁止」です。秘密情報を受け取った側は、その情報を受領した目的の範囲内でのみ利用できるという原則を明文化する条項です。例えば、「共同開発の検討のため」「業務委託の見積もり算定のため」など、具体的な目的をあらかじめ定め、それ以外の目的で利用してはならないことを契約上明らかにします。これは、将来的に取引先が競合他社となる可能性を踏まえ、秘密情報を自社の事業に転用されたり、第三者に提供されたりすることを防ぐうえで非常に重要な役割を果たします。
三つ目は「損害賠償の予定」です。秘密保持義務違反によって秘密情報が漏洩した場合、開示した側に生じる損害は、逸失利益なども含めて金額の算定が非常に難しいことが一般的です。この点に関して、民法第四百二十条は、当事者があらかじめ損害賠償の額を契約で予定することを認めています。これにより、実際の損害額を一から立証しなくても、予定された金額を請求することが可能になります。ただし、一度予定額を定めると、原則としてそれ以上の損害を請求できないという側面もあるため、秘密情報の重要性や想定される被害の規模を踏まえて、慎重に金額を設定することが求められます。
これら三つのポイントは、どれもテンプレートのままでは自社の事情と合致しない場合があります。秘密情報の定義が書面に限定されていないか、目的外利用の範囲が十分に抑えられているか、損害賠償に関する規定が実際のリスクに照らして適切かどうか、一度立ち止まって検討することが大切です。
5 総括:テンプレート任せにしない契約書作成の重要性
ここまで見てきたように、秘密保持契約書は、単にテンプレートの空欄を埋めれば良いという性質のものではありません。秘密情報の内容や開示の方法、取引の重要度や相手先との関係性によって、定義や禁止事項、損害賠償の考え方は大きく変わってきます。
テンプレートは出発点としては有用ですが、そのまま用いるだけでは、実際の取引や開示の場面に十分対応できないことがあります。特に、事業の核となる技術やノウハウ、事業の成否を左右する情報を開示する場面では、契約書の不備がそのまま重大なリスクに直結します。定義の一文、条項の一行が、将来の紛争の行方を左右することも珍しくありません。
契約書の作成には手間も費用もかかりますが、それは将来的なトラブルを避けるための「保険料」のようなものです。一度秘密が漏洩してしまえば、元の状態に戻すことは極めて困難です。だからこそ、事前にできる限りの準備をし、契約書という形でリスクをコントロールしておくことが、事業を守るうえで非常に重要になります。
6 秘密保持契約書の作成・見直しは行政書士への相談を
現在お使いの秘密保持契約書を読み直してみて、「秘密情報の定義が抽象的すぎる」「口頭や実演で伝えた情報が本当にカバーされているのか不安だ」「損害賠償や差止めに関する記載が十分なのか分からない」と感じられた方もいらっしゃるかもしれません。そのようなときは、一度専門家の目を通して、内容を点検してもらうことをおすすめします。
行政書士は、契約書作成の専門家として、お客様の事業内容や開示する情報の性質を丁寧にヒアリングし、秘密情報の定義や目的外利用の範囲、損害賠償の考え方などについて、実務に即した条項を提案することを得意としています。単に法的に整っているだけでなく、実際のビジネスの現場で「使える」契約書となるよう、条文一つひとつをお客様と一緒に検討していきます。
秘密保持契約書や、公正証書を含む各種契約書の作成・見直しについて不安やご相談がありましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。お問い合わせフォームや公式ラインからご連絡いただければ、可能な限り迅速な回答を心がけて対応いたします。お忙しい経営者の方やご担当者の方でも、ご負担を最小限にしながらご相談いただけるような体制を整えています。
大切な技術や情報を守り、安心して事業を進めていくために、秘密保持契約書の整備は非常に重要な一歩です。必要なときに、必要なだけ専門家を上手に活用していただければ幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。




